2025.10.08

転職・再就職について

個人事業主が再就職手当をもらえるケースと手続き方法、注意点を解説

再就職手当の手続きをする個人事業主の女性

会社を退職後に個人事業主として開業した場合や特例を利用していた場合など、一定の条件を満たせば再就職手当を受け取れる可能性があります。

しかし、雇用保険の加入期間や開業のタイミング、申請期限など、細かい要件をクリアしなければ支給対象外となってしまいます。例えば、失業保険の手続きを開始する前に開業したり、申請する権利の時効を過ぎたりすると受給できません。

本記事では、個人事業主が再就職手当をもらえるケースともらえないケースの具体例を紹介したうえで、手続きの流れや注意点、不支給時の対処法までわかりやすく解説します。

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個人事業主でも条件を満たすと再就職手当をもらえる

個人事業主として受け取った再就職手当を確認する男性
個人事業主でも、再就職手当の支給対象になる可能性があります。ただし、一定の条件を満たす必要があり、これを満たせずに支給対象外とみなされると受け取れません。

再就職手当をもらうためには、自ら申請手続きする必要があります。再就職すると自動的に振り込まれるわけではないため、自分が再就職手当をもらえるのか確認し、該当する場合は申請手続きを進めていきましょう。

再就職手当の支給要件をおさらい

再就職手当とは、失業保険の受給資格者が早期に安定した職業に就いた人や事業を開始した人がもらえる就職促進給付で、退職後の1日でも早い再就職を促すための制度です。

また、失業保険は「失業手当」「基本手当」と呼ばれることがあり、会社を退職して再就職を望む人のうち、雇用保険へ加入していた期間が一定以上ある場合に加入期間に応じた給付金が支給される制度です。

失業保険の受給対象者のうち、以下の8つの支給要件を満たす人は再就職手当を受け取れます。

  1. 給付制限がない場合、待期期間経過後に就職または事業開始した
  2. 給付制限1か月間は、ハローワークまたは国の認可を受けた職業紹介事業者の紹介で就職した
  3. 就職日の前日までに失業認定を受け、支給残日数が3分の1以上ある
  4. 前の会社やその関連企業でない
  5. 就職先で1年を超えての雇用が確実である
  6. 原則、就職先で雇用保険に加入している
  7. 失業保険の申請前に内定していた会社への就職ではない

 

個人事業主でも再就職手当をもらえるケース

失業保険は雇用保険への加入が支給要件にあるため、個人事業主は原則としてもらえません。しかし、個人事業主になったタイミングや条件次第で、再就職手当をもらえることがあります。

ここでは、個人事業主が支給対象になるケースを紹介します。

<h3>退職後に条件を満たして個人事業主になった場合
会社を退職後、失業保険を受給している人が再就職手当の支給要件を満たしたうえで、個人事業主になると再就職手当をもらえます。

再就職手当をもらえる就職先として正社員を想像するかもしれませんが、実は個人事業主やパート・アルバイト、派遣社員など非正規雇用でも安定した職業と証明できれば支給対象です。

退職前に事業を廃止し、再び個人事業主になる場合

退職前の会社に在籍中、個人事業主として事業を開業している場合、条件によっては再就職手当の対象になることがあります。具体的には、失業保険の受給資格を持つ人が退職前に事業を廃止し、受給中に再就職手当の条件を満たして個人事業主になった場合です。

ただし、退職後も事業を継続していた場合はそもそも失業保険の支給対象にならないため、再就職手当はもらえません。

「雇用保険受給期間の特例」を申請していた場合

失業保険の受給中に個人事業主になり、「雇用保険受給期間の特例」を申請して失業保険の受給を再開した場合は、再就職手当の対象になる可能性があります。

雇用保険受給期間の特例とは受給期間を延長できる制度で、事業を休廃業した人のうち、一定の条件を満たすと失業保険の続きを受給できるようになります。続きの失業保険を受給中に個人事業主として開業すると、再就職手当をもらえるケースがあります。

特例を受けるための申請要件は、以下の5つです。

  1. 事業の実施期間が30日以上
  2. 事業を開始した、専念し始めた、準備に専念し始めた日から30日を経過する日が受給期間内である
  3. 以前に同事業に対して就業手当や再就職手当を受けていない
  4. 自立できないと判断される事業でない
  5. 離職日の翌日以降に事業を開始した

 

<h2>個人事業主が再就職手当をもらえないケース
個人事業主でも条件を満たせば再就職手当をもらえますが、一方で雇用保険の加入期間や開業改行のタイミング、事業内容などが原因でもらえないケースもあります。

ここでは、個人事業主が再就職手当をもらえない具体的なケースを紹介します。

雇用保険の加入期間が短い場合

雇用保険の加入期間(被保険者期間)が短く、そもそも失業保険の受給資格がない場合、個人事業主に限らず会社に就職したとしても再就職手当はもらえません。

失業保険の受給条件を満たす雇用保険の加入期間は離職理由により異なり、以下の2パターンがあります。

  • 一般離職者の場合は、離職日以前の2年間に雇用保険の加入期間が通算12か月以上あること
  • 特定受給資格者や特定理由離職者の場合、離職日以前の1年間に雇用保険の加入期間が通算6か月以上あること

 

加入期間を計算する際は、賃金支払いされた日数が11日以上または80時間以上ある月を1か月とします。加入期間は連続している必要はなく、途中で転職して会社が変わってもそれぞれの会社で雇用保険に加入していれば通算できます。

退職後すぐに開業した場合

退職後すぐに個人事業主として開業した場合、再就職手当の支給条件を満たさない可能性があります。例えば、以下のケースが該当します。

  • 失業保険の受給手続き前に開業した
  • 失業保険の受給手続き後、7日間の待期期間中に開業した
  • 給付制限が設けられている場合、制限期間開始後1か月以内に開業した

 

開業していない場合でも、原則週20時間以上働く場合は「就職した」とみなされることがあります。また、待期期間中に就職してしまうと、再就職手当の対象外になるので注意しましょう。

待期期間や給付制限期間が経過した後、失業認定日の前に開業した場合は、開業日の前日までの失業保険を受給した後、再就職手当の受け取りが可能です。

1年を超えて事業を継続できないと判断された場合

再就職手当の条件として、1年を超える勤務が確実であることが必要です。事業内容の申告により、1年を超えて事業を継続できないと判断されると再就職手当をもらえなくなります。

そのため、継続可能な事業内容を申告し、必要に応じてきちんと説明できるよう準備しておくことが重要です。

3年以内に再就職手当をもらっている場合

過去3年以内の就職や開業で、再就職手当や常用就職支度手当をもらっている場合は、今回の開業で再就職手当はもらえません。「3年以内」の基準になるのは、前回再就職手当をもらって就職したときの就職日です。

例えば、2023年9月1日に就職・開業して再就職手当をもらった人は、2026年9月1日までに開業した場合は再就職手当をもらえないため、開業のタイミングに注意が必要です。この場合、2026年9月2日以降の開業であれば、再就職手当を再びもらえます。

再就職手当の申請期限を過ぎている

再就職手当の支給要件を満たしていても、申請期限を過ぎていると受け取れません。申請期限は、原則として開業した日の翌日から1か月以内です。

ただし、再就職手当を受け取る権利の時効は、開業した日の翌日から2年以内となります。例えば、2025年9月30日に開業した場合の申請期限は2025年11月1日ですが、時効が成立して申請できなくなるのは2027年10月2日以降となります。

個人事業主が再就職手当をもらうときの流れ

個人事業主が再就職手当をもらうときは、基本的に次の流れで手続きを進めます。

  1. ハローワークで求職申込みを行う
  2. 雇用保険説明会に参加する
  3. 待期期間と給付制限期間を過ごす
  4. 失業認定を受ける
  5. ハローワークで就職申告を行う
  6. 税務署に開業届を提出する
  7. ハローワークで再就職手当を申請する

 

手続きの流れを詳しくみていきましょう。

ハローワークで求職申込みを行う

退職後、受給期間中にハローワークで求職申込みを行い、失業保険の受給資格の決定を受けます。

受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。やむを得ない事情のある人は、延長申請も可能ですが、受給期間中に手続きを行わなかった場合は受け取れなくなります。

また、手続きが遅れて、受給期間中に支給日数分を受け取りきれない場合は、受給期間を超えた分はもらえなくなることを覚えておきましょう。

雇用保険説明会に参加する

求職申込みのときに指定された日時の雇用保険説明会に参加し、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を受け取ります。上記2つの書類は、開業して失業保険の受給を終了させるときの手続きに必要なので大切に保険しておきましょう。

待期期間・給付制限期間を過ごす

求職申込み後、7日間の待期期間を過ごしましょう。待期期間後に給付制限がある場合は1か月を過ぎるまで、開業準備など開業に向けた取り組みは控える必要があります。

初回の失業認定日まで、決められた回数以上の求職活動を行い実績を作ることが求められるため、給付制限中も必要な活動は続けておくことが大切です。

ハローワークで失業認定を受ける

指定された日にちに失業認定を受けて支給が決まると、失業手当を受け取れます。失業認定では、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」の提出が必要です。失業申告書には、行った求職活動を記入して持参します。

失業認定日の前に開業する場合、開業する日の前日にハローワークで就職申告することも忘れないようにしましょう。

ハローワークで就職申告を行う

開業する日の前日に、ハローワークで開業することを報告し、就職申告を完了させます。就職申告の必要書類は、以下のとおりです。

  • 雇用保険受給資格者証
  • 失業認定申告書
  • 開業届の控え、登記事項証明書など

 

ただし、開業届の控えや登記事項証明書の提出は、後日の提出が認められています。

税務署に開業届を提出する

就職申告後、納税地を管轄する税務署に開業届を提出します。開業に必要な書類は、以下のとおりです。

  • 開業・廃業届出書
  • 青色申告承認申請書(青色申告する場合)
  • 個人番号確認書類
  • 本人確認書類

 

再就職手当の申請には「開業届の控え」が必要ですが、2025年1月から控えの押なつが行われなくなりました。控えの代わりに受け取れる「リーフレット」には、開業届を提出した日付などが記載されているため、開業手続きの際に受け取っておくと安心です。

ハローワークに再就職手当を申請する

最後に、以下の書類をハローワークに提出し、再就職手当を申請します。

  • 再就職手当支給申請書
  • 雇用保険受給資格者証
  • 開業届の控えなど事業開始を証明できる書類

 

申請後、書類や事実確認など審査が行われ、支給が決定すると支給決定通知書が送られてきます。支給決定日から、1週間程度で指定の口座に入金されますが、銀行の営業日次第で前後することがあるので注意しましょう。

一方、再就職手当の支給要件を満たさない場合は不支給決定通知書が届きます。決定に納得がいかない場合の対応方法について、詳しくは後述します。

個人事業主が再就職手当を受け取る際の注意点

繰り返しになりますが、個人事業主でも再就職手当を受け取れます。ただし、いくつか気をつけたい点もあるため、ここでは受給する際に知っておきたい注意点を解説します。

待期期間・1か月の給付制限後に開業する

待期期間中に開業すると、失業保険や再就職手当は受け取れなくなります。給付制限中も1か月以内の開業は支給対象外で、退職後に失業保険の受給手続きを開始する前の開業も同様です。

個人事業主になり再就職手当をもらうためには、待期期間と給付制限の1か月間を過ぎてから開業や開業準備する必要があります。

開業準備だけでも失業保険の支給が停止される

開業届を出していない状態でも、開業準備を始めると「失業状態」とは言えなくなるため、その時点で失業保険の受給資格がなくなることがあります。

そのため、準備を始めた段階で、ハローワークに申告して手続きしなくてはいけません。申請せずに失業保険を受給し続けた場合、不正受給と判断されてペナルティを受ける可能性があるので注意が必要です。

早く開業した方が受け取れる額が増える

再就職手当で受け取れる金額は、早く開業するほど大きくなることがあります。再就職手当は、「基本手当日額×支給残日数×支給率」で計算できます。

基本手当日額とは、失業保険の1日分の支給額です。原則として雇用保険受給資格者証に記載されている金額で計算しますが、再就職手当をもらうときの基本手当日額には上限額が設定されていることに注意しましょう。

支給残日数は、開業した日以降に残っている支給日数です。支給率は、開業時点で残っている支給残日数によって以下のように決まります。

  • 所定給付日数の3分の2以上残っている場合は70%
  • 所定給付日数の3分の1以上残っている場合は60%

 

再就職手当が不支給になったときの対処法

再就職手当が不支給とならないように確認する男性
再就職手当を申請したにもかかわらず、不支給となった場合はいくつかの対処法により、支給可能になることがあります。

ここでは、不支給になったときの対処法を2つ紹介します。

審査請求を行う

再就職手当の審査に落ちてしまい結果に納得できない場合は、ハローワークの決定に対して審査請求を要求することが可能です。

審査請求する場合は、不支給を知った日の翌日から3か月以内に都道府県労働局に行って手続きする必要があります。再審査してもらえる可能性もありますが、書類の準備や請求手続きに時間がかかることを理解しておきましょう。

保険受給期間の特例を申請する

再就職手当が不支給になった場合、一定の条件を満たせば雇用保険受給期間の特例を申請できます。特例とは、本来の受給期間に開業から休廃業までの期間が加算され、最長3年間延長できることが制度です。

特例を利用すると失業保険の受給期間が延長され、事業を休廃業した場合に失業保険の残りを受け取れる可能性があります。申請期限は、原則として事業を開始した日・専念し始めた日・準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内です。再就職手当が不支給となった場合は、期限の2か月を超えても申請できます。

まとめ

個人事業主でも、一定の条件を満たせば再就職手当を受け取れます。ただし、雇用保険の加入期間や開業のタイミング、必要書類の提出期限など細かな要件をクリアする必要があり、少しでも手続きを誤ると不支給となるリスクがあります。

さらに、不支給となった場合の救済制度もありますが、制度理解や申請準備には大きな労力がかかります。こうした複雑な手続きを自分だけで進めるのは不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

再就職手当や関連する手続きをスムーズに進めたいときは、「社会保険給付金サポート」がおすすめです。数多くの支援実績のあるスタッフが、受給条件の確認から申請の流れ、不支給時の対応まで丁寧にサポートしてくれるため、安心して制度を活用できます。失業保険や再就職手当の受給で少しでも不安を抱えている方は、まずは無料相談からお問い合わせください。

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この記事の監修者

杉山雅浩

スピネル法律事務所 弁護士

東京弁護士会所属。
池袋中心に企業顧問と詐欺被害事件に多く携わっています。
NHKやフジテレビなど多くのメディアに出演しており、
詐欺被害回復などに力を入れている個人に寄り添った弁護士です。

YouTubeの他、NHK、千葉テレビ、テ日本テレビ、東海テレビ、FM西東京、フジテレビ、共同通信社、時事通信社、朝日新聞、朝日テレビ、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、TBS、CBCテレビ、名古屋テレビ、中日新聞その他数多くのネット記事、週刊誌多数のメディアに取材されたり、AbemaTV、NHKスペシャル、クローズアップ現代、バイキングモア、おはよう日本、など有名番組に出演してます!

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