一人株式会社の廃業とは
廃業・解散・清算の違い
「廃業」は事業をやめることを指す一般的な言葉で、法律上の正式な手続き名ではありません。株式会社を法的に消滅させるには、「解散」と「清算」という2つの段階を踏む必要があります。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 廃業 | 事業をやめること全般を指す言葉 |
| 解散 | 会社の営業活動を終わらせると決めること。この時点では会社はまだ残っている |
| 清算 | 解散後に、売掛金の回収や借金の返済をして財産を整理すること |
| 清算結了 | 清算がすべて終わり、会社が法的に消滅すること |
つまり、解散を決めただけでは会社は消えません。清算を終えて清算結了の登記をした時点で、はじめて会社がなくなります。
休眠・個人成りとの違い
会社を動かさなくなる方法は、廃業(解散・清算)だけではありません。よく比べられるのが「休眠」と「個人成り」です。
| 方法 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 廃業(解散・清算) | 会社を法的に消滅させる | 事業を再開する予定がない人 |
| 休眠 | 会社を残したまま事業だけ止める | いずれ再開するかもしれない人 |
| 個人成り | 会社をたたみ、同じ事業を個人事業主として続ける | 売上が減り、会社の維持費が負担になっている人 |
休眠は手続きが簡単な反面、会社が残るので、毎年の税務申告が必要です。自治体によっては休眠中も法人住民税がかかります。もう事業を再開しないと決めているなら、きちんと廃業したほうが長い目で見て負担は少なくなります。
廃業手続きの全体の流れとスケジュール
一人株式会社の廃業は、大まかに次の流れで進みます。官報公告の期間が最低2か月あるため、どんなに急いでも全体で3か月ほどかかると考えておきましょう。
次の仕事を始める時期や、会社の事業年度の終わりが決まっている場合は、そこから逆算して解散日を決めるのがコツです。たとえば4月から会社員として働き始めたいなら、年内に解散の決議をしておくと、余裕をもって清算結了まで進められます。
株主総会で解散を決め、清算人を選ぶ(多くは社長自身)
解散日から2週間以内に法務局へ申請
2か月以上の期間を設けて、債権者に申し出てもらう
税務署・自治体・年金事務所に届け出て、解散日から2か月以内に申告
売掛金の回収、借金の返済をして、残った財産を確定させる
法務局に登記し、税務署などに清算結了を届け出て完了
一人株式会社の廃業手続きのやり方
解散の決議と清算人の選任
株式会社を解散するには、株主総会の特別決議が必要です。一人株式会社なら株主も自分一人なので、実際に集まる必要はなく、議事録を作成すれば足ります。議事録には、解散する日と清算人を選んだことを記載します。
清算人は、解散後に会社の財産を整理する役割を担う人です。一人株式会社では、社長がそのまま清算人になるのが一般的です。
ここで決めておきたいのが、営業を終える日と解散日です。取引先への最終納品や請求をすべて済ませてから解散日を迎えるほうが、清算の作業が少なくて済みます。営業終了日を先に決めて取引先に知らせ、そのあとに解散日を置く、という順番で考えるとスムーズです。
解散登記と清算人の登記
解散を決めたら、解散日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ「解散の登記」と「清算人の選任の登記」をまとめて申請します。申請書は法務局のホームページに記載例があり、自分で作成することもできます。
主な添付書類は、定款、株主総会議事録、株主リスト、清算人の就任承諾書です。登録免許税は、解散の登記が3万円、清算人の登記が9,000円で、合計3万9,000円かかります。
官報公告と債権者への通知
解散したら、会社にお金を貸している人や代金の支払いを待っている人(債権者)に向けて、「2か月以上の期間内に申し出てください」という内容を官報に掲載しなければなりません。あわせて、取引先や金融機関など、わかっている債権者には個別に通知します。
この公告期間が終わるまでは、原則として清算結了の登記ができません。廃業手続き全体が最短でも3か月ほどかかるのは、このためです。官報への掲載料は行数によって変わりますが、解散公告ではおおむね3万〜4万円程度が目安です。
税務署・都道府県・市区町村への届出
解散の登記が済んだら、税務署に「異動届出書」を提出して、会社が解散したことを届け出ます。都道府県税事務所と市区町村にも、同じように解散の届出が必要です。どこも登記事項証明書の写しを添えて提出するのが一般的です。
社長に役員報酬を払っていた会社は、給与を支払う事業所として税務署に届け出ているはずなので、「給与支払事務所等の廃止届出書」もあわせて提出します。
年金事務所への届出(会社の社会保険をやめる手続き)
一人株式会社でも、社長に役員報酬を払っていれば、会社は健康保険と厚生年金の適用事業所になっています。事業をやめたら、年金事務所に「適用事業所全喪届」を提出して、会社の社会保険を終わらせます。
提出期限は、事業所に該当しなくなった日から5日以内です。原則として、解散の登記が記載された登記事項証明書のコピーを添付します。この届出を出すと、社長自身も会社の健康保険と厚生年金から外れるので、個人の健康保険と年金の切り替え手続きが必要になります。
参考:適用事業所が廃止等により適用事業所に該当しなくなったときの手続き(日本年金機構)
解散時と清算時の確定申告
廃業手続き中は、税金の申告が2回必要です。1回目は、事業年度の初めから解散日までの分の確定申告で、解散日の翌日から2か月以内に行います。2回目は、解散日の翌日から残った財産が確定するまでの分で、財産が確定した日の翌日から1か月以内に申告します。
売上がない会社でも申告は必要です。決算書の作成が不安な場合は、この部分だけ税理士に頼むという人も少なくありません。
残った財産の分配と清算結了の登記
公告期間が終わったら、売掛金の回収や借金の返済、会社名義の預金や備品の処分を進めます。すべて払い終えて残った財産は、株主に分配します。一人株式会社なら、株主である社長が受け取ることになります。
会社名義の銀行口座は、すぐに解約しないように注意しましょう。清算時の確定申告で税金を納めたり、還付を受けたりする場合に口座が必要になることがあります。税金の精算がすべて終わってから解約するのが安心です。
清算が終わったら、決算報告を作成して株主総会で承認を受け、その日から2週間以内に法務局へ清算結了の登記を申請します。登録免許税は2,000円です。最後に、税務署や都道府県、市区町村に清算結了の届出をすれば、廃業手続きは完了です。
一人株式会社の廃業にかかる費用
一人株式会社の廃業にかかる費用をまとめると、次のようになります。
| 費用 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 解散の登記 | 3万円 | 登録免許税 |
| 清算人の登記 | 9,000円 | 登録免許税 |
| 清算結了の登記 | 2,000円 | 登録免許税 |
| 官報公告 | 3万〜4万円程度 | 掲載する行数で変わる |
| 登記事項証明書など | 数千円 | 届出に添付する分 |
| 司法書士への報酬 | 数万〜十数万円 | 登記を頼む場合 |
| 税理士への報酬 | 十数万〜30万円程度 | 2回の確定申告を頼む場合 |
登記と官報公告の実費
すべて自分で手続きした場合、最低限かかるのは登録免許税の合計4万1,000円と官報公告の費用で、合わせて7万〜8万円程度です。これに登記事項証明書の取得費用や郵送費などが加わります。
司法書士・税理士に頼む場合の費用
登記を司法書士に、確定申告を税理士に頼むと、実費とは別に報酬がかかります。どちらもまとめて依頼すると、全体で20万〜40万円ほどになることも珍しくありません。金額は事務所や会社の状況によって大きく変わるので、複数の事務所で見積もりをとるのがおすすめです。
清算中もかかる法人住民税
見落としやすいのが、法人住民税の均等割です。会社が存在している限り、売上がなくても毎年かかり、解散してから清算結了までの期間も対象になります。資本金が少ない一人株式会社でも、都道府県と市区町村を合わせて年7万円程度かかるのが一般的です。
清算が長引くとその分だけ負担が増えるので、事業をやめると決めたら、手続きを先延ばしにしないことが節約につながります。
自分でやるか専門家に頼むかの判断基準
一人株式会社の廃業は、自分で手続きすることもできます。ただ、会社の状況によっては専門家に任せたほうが安全です。判断の目安をまとめました。
| 自分でやりやすいケース | 専門家に頼んだほうがいいケース |
|---|---|
| 借金や未払いがない | 金融機関からの借入が残っている |
| 会社名義の不動産や車がない | 会社名義の不動産や在庫がある |
| 取引先が少なく、売掛金の回収が済んでいる | 取引先が多く、債権者への対応が必要 |
| これまでも自分で決算をしてきた | 決算や税務申告を税理士に任せてきた |
登記は法務局の記載例を見ながら自分でやり、確定申告だけ税理士に頼む、という分け方もできます。法務局では登記の相談を予約制で受け付けているところも多いので、書類に不安があれば事前に相談しておくと安心です。
費用だけで決めず、かかる手間も考えておきましょう。自分で進める場合、申請書や議事録の作成、法務局や税務署とのやりとり、官報公告の申し込みなどで、慣れていない人なら数十時間はかかります。書類に不備があると法務局から補正を求められ、清算結了が遅れて法人住民税の負担が増えることもあります。廃業と並行して就職活動や次の事業の準備を進めたい人は、専門家に任せて時間を買うのもひとつの考え方です。
廃業後に社長自身がやる手続き
会社の手続きが終わっても、社長個人の手続きが残っています。会社の健康保険と厚生年金から外れるので、次の会社にすぐ入らない場合は、自分で切り替えをしなければなりません。
健康保険の切り替え(任意継続・国民健康保険・家族の扶養)
会社の健康保険から外れたあとは、次の3つから選びます。
| 選択肢 | 条件・特徴 | 手続き先 |
|---|---|---|
| 任意継続 | 継続して2か月以上加入していれば、最長2年間それまでの健康保険を続けられる。保険料は原則2倍(上限あり) | 協会けんぽの都道府県支部など。資格がなくなった日から20日以内 |
| 国民健康保険 | 前の年の所得や世帯の人数で保険料が決まる | 住んでいる市区町村 |
| 家族の扶養 | 年収の見込みが一定額未満なら、保険料の負担なしで入れる | 家族の勤務先 |
一人株式会社の社長は、自分で役員報酬の額を決めているぶん、任意継続と国民健康保険のどちらが安いかが人によって大きく変わります。役員報酬を高めに設定していた人は任意継続のほうが安くなることが多く、低めだった人は国民健康保険のほうが安くなることもあります。任意継続は申し出の期限が短いので、全喪届を出す前に両方の保険料を調べておきましょう。
参考:任意継続(協会けんぽ)
参考:退職後の健康保険はどっちが得?任意継続と国民健康保険を徹底比較・判断ガイド
国民年金への切り替え
厚生年金から外れたら、国民年金の第1号被保険者への切り替えが必要です。手続きは住んでいる市区町村の役所で行います。配偶者を扶養に入れていた場合は、配偶者も国民年金の第3号から第1号への切り替えが必要になるので、忘れずに手続きしましょう。
個人の住民税と確定申告
役員報酬から天引きされていた個人の住民税は、廃業後は自治体から届く納付書で自分で払うことになります。廃業した年に役員報酬を受け取っている場合は、会社で年末調整を受けていないことが多いので、翌年に自分で確定申告をして所得税を精算しましょう。残った財産の分配を受けたときに、出資額を超える部分が配当とみなされて課税されることもあるので、金額が大きい場合は税理士に確認しておくと安心です。
参考:退職前にすることチェックリスト!手続き・お金・健康保険の準備を順番に解説
廃業後に受け取れる可能性があるお金
小規模企業共済の共済金
小規模企業共済に加入していた社長は、会社の解散によって共済金を受け取れます。会社の解散は、受け取れる金額がもっとも有利な区分の請求理由にあたるので、掛金を長く払っていた人ほどまとまったお金になります。
受け取り方は一括、分割、その組み合わせから選べます。一括で受け取ると退職所得、分割で受け取ると公的年金等の雑所得として扱われ、どちらも税金の面で優遇されています。廃業後の生活費や、次の仕事が決まるまでのつなぎとして大きな助けになります。
共済金は自動では支払われないので、自分で中小企業基盤整備機構に請求する必要があります。請求には、会社が解散したことがわかる登記事項証明書などが必要になるので、解散の登記が済んだら早めに準備しておきましょう。
参考:役員退任時にいくら受け取れる?小規模企業共済の共済金について説明します(中小企業基盤整備機構)
社長は原則として失業保険をもらえない
会社員が辞めたときにもらえる失業保険(雇用保険の基本手当)は、社長には原則としてありません。株式会社の取締役は雇用保険に入れないため、会社を廃業しても失業保険の対象にはならないのです。
そのため、廃業後の収入のあてがない場合は、小規模企業共済や貯金、早めの再就職で生活費を確保する必要があります。廃業後に会社員として就職すれば、そこから雇用保険に入り直すことになります。次に会社を辞めるときに失業保険を受け取るには、改めて加入期間を積み上げる必要がある点も覚えておきましょう。
会社員から起業した人は失業保険を受け取れる場合がある
ただし例外があります。会社員を辞めたあとに起業した人は、「事業開始等による受給期間の特例」を使っていれば、会社員時代の失業保険を受け取れる可能性があります。
失業保険は通常、離職日の翌日から1年の間に受け取らなければなりません。この特例を申請しておくと、事業をしていた期間(最長3年)をこの1年に数えないので、廃業したあとに失業保険を受け取れるようになります。2022年7月1日以降に事業を始めた人が対象で、事業を始めた日などの翌日から2か月以内にハローワークへ申請しておく必要があります。
起業したときに申請したかどうかで結果が変わるので、心当たりがある人は、廃業を決めた段階で住所地のハローワークに確認してみてください。
役員退職金を受け取る場合の注意点
会社にお金が残っている場合は、社長に役員退職金を支払ってから清算する方法もあります。役員退職金は退職所得として扱われ、税金の負担が軽くなりやすいのが特徴です。
ただし、支払うには株主総会での決議が必要で、金額が高すぎると会社の経費として認められないことがあります。一人株式会社では社長が自分で金額を決められるため、在任期間や役員報酬の額から見て妥当な金額かどうかが、税務署から特に見られやすいポイントです。残った財産をそのまま分配する場合と、役員退職金として受け取る場合で手取りがどう変わるかは、税理士に試算してもらうのが確実です。
一人株式会社を廃業するときの注意点
借金が残る場合は通常の清算ができない
ここまで説明した手続きは、会社の財産で借金をすべて返せることが前提です。財産より借金のほうが多い場合は、通常の清算では終われず、裁判所を通じた特別清算や破産の手続きが必要になります。この場合は自分で進めるのは難しいので、早めに弁護士へ相談しましょう。
社長の個人保証は廃業しても消えない
一人株式会社では、会社の借入に社長が個人で連帯保証をしていることがよくあります。会社を廃業しても、個人保証の責任はなくなりません。会社が返しきれなかった分は、社長個人に請求されることになります。
廃業を考え始めた段階で、借入先の金融機関に返済の見通しを相談しておくと、選べる方法が広がります。
決算期をまたぐと費用と手間が増える
解散日の決め方によっては、通常の決算と解散時の確定申告が近い時期に重なり、申告の回数や税理士への報酬が増えることがあります。解散日は、会社の事業年度の終わりに合わせるか、その直後に設定すると手間を減らしやすくなります。
一人株式会社の廃業についてよくある質問
赤字でも廃業できる?
赤字でも、会社の財産で借金や未払いをすべて払える状態なら、通常の解散・清算で廃業できます。問題になるのは、財産より借金が多い債務超過の場合です。そのときは特別清算や破産の手続きを検討することになります。
廃業手続きにはどれくらいの期間がかかる?
借金がなく、手続きが順調に進んだ場合でも、解散の決議から清算結了の登記まで最短で3か月ほどかかります。官報公告の期間が2か月以上必要なことに加えて、公告の掲載までの準備や、確定申告の作成に時間がかかるためです。会社名義の不動産の売却や、売掛金の回収に時間がかかる場合は、半年以上かかることもあります。
官報公告は省略できる?
債権者に申し出てもらうための官報公告は、法律で義務付けられているので、借金がない会社でも省略はできません。公告をしないまま清算を進めると、あとで債権者が現れたときにトラブルになるおそれがあります。
廃業せずに放置するとどうなる?
事業をやめても手続きをしないままだと、会社は存在し続けます。その間も法人住民税の均等割や税務申告の義務が残ります。また、株式会社は12年以上登記をしないでいると、法務局の手続きによって解散したものとみなされることがあります。放置すると思わぬ負担が続くので、事業を再開しないならきちんと廃業しておきましょう。
アルバイトなどの従業員がいる場合は?
社長一人の会社でも、アルバイトやパートを雇っている場合は、従業員向けの手続きが加わります。解雇する場合は原則として30日前までに予告するか、予告の日数が足りない分の解雇予告手当を支払う必要があります。雇用保険に加入させていた場合は、ハローワークへの事業所の廃止の届出や、従業員の離職票の手続きも必要です。従業員が失業保険をスムーズに受け取れるよう、離職票は早めに用意しておきましょう。
合同会社でも同じ手続き?
合同会社も、解散と清算という流れは株式会社とほぼ同じです。主な違いは、株主総会ではなく社員(出資者)全員の同意で解散を決める点や、清算結了の登記で清算に関する承認書を添付する点です。登録免許税は解散の登記が3万円、清算結了の登記が2,000円です。
まとめ
一人株式会社の廃業は、社長一人で意思決定できるぶん進めやすい一方で、登記や官報公告、2回の確定申告など、やるべきことは普通の会社と変わりません。最後にポイントを整理しておきます。
- 会社を消滅させるには、解散と清算の2段階の手続きが必要
- 官報公告の期間が2か月以上あるため、全体で最短でも3か月ほどかかる
- 自分で手続きすれば、実費は登録免許税4万1,000円と官報公告費で7万〜8万円程度
- 清算中も法人住民税の均等割がかかるので、手続きは先延ばしにしない
- 全喪届を出したら、社長自身の健康保険と年金の切り替えが必要
- 小規模企業共済に入っていれば、会社の解散で共済金を受け取れる
- 会社員から起業した人は、特例を申請していれば会社員時代の失業保険を受け取れる可能性がある
廃業後に会社員として働く予定の人や、失業保険を受け取れるか気になる人は、退職後にもらえるお金について一度確認しておくと安心です。自分の場合に受け取れる給付金を知りたい方は、退職コンシェルジュの給付金サポートをチェックしてみてください。
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