2024.02.16
退職について
希望退職制度ってお得なの?早期退職制度との違いって?
コロナウイルスの影響もあって企業の倒産が増加する中、希望退職制度を活用して人員を削減する企業が増加しつつあると言われています。そのため、この制度を活用して、退職をする方もいるかと思います。人件費を抑えた企業の施策として、雇用者側からみれば退職金などを割増して支給してもらえるなど、一見すると双方にメリットのある制度だと言えます。希望退職制度の他には似た名前もあるので注意が必要です。ここでは、そんな希望退職制度や早期退職制度の違いに留意しつつ、メリットやデメリットについて、解説します。
希望退職制度とは?
希望退職制度は、その名の通り企業が従業員の希望者を募って退職させる制度です。背景にはその企業の経営悪化や将来の経営リスクに備える目的があることがほとんどです。リストラの前に、先に希望者を募って退職者を出すことにより、人員削減を狙うものです。そのため、希望退職=リストラではありません。退職者の離職理由は「会社都合」となるため、失業手当を受け取る上で有利になります。転職活動の際にも、会社都合で辞めていることが分かれば特に問題があったとは見なされません。何より、希望退職制度によって、退職金が割増しでもらえることが多いのです。そのため、その退職金を目当てに希望退職制度の利用を望む従業員も少なくありません。転職を視野に入れていた人にとっては絶好の機会です。企業にとっても、あくまで従業員の意思を尊重した上で希望者を募る形となり、合意で人員削減に努めることができるため、平和的な手段と言えます。応募人数が少なければ、何回も希望退職者を募る場合もあります。ただし、回数を重ねれば重ねるほど、退職金の割り増し分が少なくなっていくのが特徴的です。
そもそも退職金制度とはどういうもの?
退職金制度とは、会社の福利厚生のひとつで、会社の就業規則に則って施策されています。しかし、会社によってはそもそも退職金制度自体がないところもあります。そのため、自分の所属する会社が退職金制度を設けているかどうかを一度確認してみましょう。入社時の雇用契約書に書いてあるはずです。退職金制度は、あくまで就業規則の拘束であり、法的拘束力はありません。ただし上場企業は、その規模から長期的に人材を雇用することが出来る能力があるため、ほとんどは退職金制度を設けていると言えます。一方、ベンチャー企業などでは退職金制度を設けていないことが多い傾向です。あったとしても勤続年数〇年以上などと、上場企業よりも受給のハードルが高くなっている傾向が強いことに注意してください。一番良いのは、この制度の有無を入社時点で確認しておくことです。
希望退職制度と早期退職制度の違いとは?
希望退職制度と間違えられやすいのが「早期退職制度」です。早期優遇退職制度と呼ばれる場合もあります。希望退職制度と早期退職制度の大きな違いは、退職の際の「離職理由」です。希望退職制度では、会社の業績等の理由から人員削減を目的に行うことにより、会社都合退職扱いとされます。早期退職制度は、中高年の生活設計の支援や組織の活性化を目的として、比較的中高年を対象に行われますが、「自己都合退職」とされます。早期退職制度はキャリアアップなどを求める社員の自主的な退職として扱われるためです。
ただし、会社によってはこれら2つをひっくるめて「早期(希望)退職制度」等と呼ぶ場合もあります。会社独自の名称の制度だった場合は、募集内容や条件の内容の確認が必須です。
希望退職制度と選択定年制の違いとは?
希望退職制度と似た名前の制度として、「選択定年制」という制度もあります。希望退職制度との大きな違いは、「会社都合退職」扱いとなるか、「自己都合退職」扱いとなるかという点です。選択定年制は、定年退職となるタイミングを会社と話し合って決めることができるというものです。高年齢者雇用安定法が施行されたことにより、仕事を続けたい従業員は本来の60歳以上の65歳まで働くことが可能になり、2021年の法改正によって、定年は70歳に引き上げられています。つまり、定年退職の時期は本人の希望により異なるということになりました。これによって、一定の年齢や勤続年数を経た従業員と会社が「何歳まで働きたいか」という点について協議を行い、両者が合意した年齢を定年として設定する、選択定年制という制度が生まれています。選択定年制は自分で退職時期を希望しているため、「自己都合退職」扱いとなるのです。
それでは、希望退職制度を利用した場合のメリット、デメリットはどんなものがあるのでしょうか。制度を利用する前に、利用した場合のメリット、デメリットを知り、本当に使うべきかどうか検討する必要があります。ここでは二つの制度を利用した場合のメリットとデメリットについて紹介します。
希望退職制度を利用した場合の3つのメリット
退職金を多めに受け取れる
先述の通り、退職金制度がある会社で希望退職者を募る場合は、大目に退職金を受け取れる場合がほとんどです。そのため、一時的とは言えまとまったお金が手元に入ってくるというメリットがあります。また、希望退職制度を利用した人が受けられる恩恵は会社によって異なります。退職金の他に手当がつく場合や、その他何らかの報酬が発生するケースもあります。逆に思ったより退職金が増えなかった…というケースもあるので、必ず希望退職制度の概要を確認してください。
会社都合退職扱いとなる
これらの制度を活用して退職した場合は、「自己都合退職」ではなく、「会社都合退職」の扱いとなります。そのため、失業給付金の支給日数が、自己都合退職よりも短く、給付を受けやすいというメリットがあります。「自己都合退職」の場合は給付制限があり、退職後すぐに失業給付金を受け取ることは出来ませんが、「会社都合退職」の場合には給付制限がありません。また、支給期間も長くなっているので、より転職活動を安心して行うことができるのです。すぐに転職先が決まらなくても、支給期間が通常より長い分、焦らなくて済むという利点があります。
転職活動が有利になる
会社都合退職とされる利点の一つですが、「自己都合退職」扱いとされるよりも、「会社都合退職」の方が転職活動を行う上で有利に働くことがほとんどです。ネガティブな印象を与えがちな「前職の退職理由」に関して、人間関係のトラブルや不満から退職したわけではないと分かるからです。希望退職制度を利用して退職したと話しても特に問題はありません。むしろ話し方次第では、「会社の制度を上手く利用してキャリアアップを図ろうとしている」という風に映ることもあるでしょう。
希望退職制度を利用した場合の3つのデメリット
安定した収入が途絶える
退職すれば、会社員としてこれまで当然のように得ていた収入が突然途絶えることとなります。退職金が入っても、その次の月から給与はありません。そのため必死で転職活動をしなければいけなくなります。貯金が尽きるまでに転職先が決まらなければ死活問題になってしまいます。この点については失業給付金を利用することである程度カバーできますが、いくら支給期間が延びるとは言え、失業給付金の支給期間にも限度があります。それまでに就職先を決めなければいけないため、どうしても焦りが芽生えがちです。住宅ローンなどを抱えている人はより慎重に考えた方が良いでしょう。
退職が認められるとは限らない
希望退職制度の利用を希望しても、本当に会社にとって必要な重要戦力であれば、却下されてしまう場合もあります。そうなれば、「退職しても構わない(なんなら退職したい)」と思っていることが周囲にバレてしまい、気まずい雰囲気になることも少なくありません。結局周囲とぎこちなくなってしまい、自己都合退職でいいからと退職に踏み切るケースもあるほどです。会社によっては希望退職制度で先着何名は確定、などと思い切った戦略で希望者を募る場合もありますが、そうした記載がない場合は断られる可能性を考えて慎重に動いた方が良いでしょう。
退職日が会社次第になる
退職日を自分で決めることができないというのがデメリットの一つです。本来なら転職活動をふまえ、自分で退職の時期を決めるのが当然ですが、希望退職制度を利用した場合はあくまで会社の意向に則って退職時期を決定することとなります。会社の経営状況や退職者の業務の進捗によっても異なります。会社によっては一方的に決めて通告するのではなく、事前に上司と面談をしてある程度希望をすり合わせてくれる場合もあります。しかし原則として会社の制度を利用して辞める以上、会社が退職日の決定権を握っていると考えた方が良いでしょう。
希望退職制度に応募すべき人の3つの特徴
希望退職制度にはそれぞれメリット、デメリットがあります。それでは、そのメリット、デメリットをふまえた上で、どんな人が希望退職制度を利用するべきなのでしょうか?デメリットはありますが、希望退職制度を利用して上手くいく人の特徴を3つ紹介します。
コミュニケーション能力の高い人
コミュニケーション能力が高い人は、相手への気遣いや空気を読む力に長けています。誰とでもすぐに親しくなることができる人は、どこへ行っても重宝されます。そしてほとんどの場合、どんな環境でもその力を発揮できるでしょう。退職した後には就職活動を行い、新しい会社に所属することとなります。新しい会社で実力を発揮できれば、キャリアアップ・年収アップも夢ではありません。また、コミュニケーション能力の高さからその人脈を生かして新たな仕事の場を広げることもできるはずです。
元々転職を考えていた人
希望退職の話が上がる前から転職を考えていた人は、いい機会なので希望退職制度を利用するべきと言えます。退職を引き留められるどころか良い条件で退職することができれば良いスタートを切ることができます。先述の通り、退職理由が会社都合となるため、転職活動に有利になるからです。ただし、会社にとって必要な人材とされている場合は希望退職制度を利用したくても断られてしまう可能性もあります。そうした場合は、「前々から転職したかった」というニュアンスで話をすると、残ることになった場合社内で気まずくなってしまう可能性もあります。あまり公にせず、内々に上司に伝えてみましょう。
高い専門性と知識や技術を持っている人
何かに特化していると、その分野では大いに歓迎されます。自分がこれまで培った知識や経験、技術という貴重なものが武器になるからです。希望退職制度の利用者の応募を行っている時点で、会社の経営は問題なく潤滑とは言えません。そこで、さらに良い待遇や職場環境を求めて、あえて希望退職制度を利用して転職市場へ踏み出すという人もいます。専門的な知識や技術を持っている人は即戦力として見なされるため、年齢に関係なく市場価値が高いことから、急遽転職活動をすることになっても比較的苦労は少ないと言えます。
増加傾向にある早期退職制度
早期退職制度は、決して他人事ではありません。近年、早期退職制度は全国的に増加傾向にあるからです。少子高齢化社会である現代、会社の経営に問題がある場合だけではありません。会社が組織の刷新を狙って、世代交代を目的として早期退職制度を提起する場合もあります。シニア層が退職すればその分若手を採用することができ、結果として組織の「若返り」を図ることができます。一方的なリストラでは労働者の不満や反発を招き、大きなトラブルに発展してしまうこともありますが、早期退職制度では互いに合意して退職に至るため、そうした不満が起こることはほぼありません。互いに合意のもとで人員削減を行えるという利点から、早期退職制度を取り入れる企業が増えているのです。
2020年は上場企業93社が希望および早期退職制度を活用
東京商工リサーチによると、2020年の希望および早期退職制度を活用した企業は、上場企業93社に上るとしています。前年の35社から2.6倍増しと大幅に増加していて、新型コロナウイルスの影響が色濃く反映されています。同制度を実施した主な企業は以下となります。
企業名 | 募集退職者人数 |
レオパレス | 約1,000人 |
ラオックス | 約250人 |
レナウン | 約300人 |
日本ケミコン | 約100人 |
これらのように、主に不動産や小売り(免税店などインバウンド関連)、アパレル業界での同制度実施が際立っています。飲食、宿泊も併せて新型コロナウイルスの影響が甚大な年であり、様々な業界で影響が出ていました。希望退職者を年に2回募集した企業は8社にも上っています。2002年をピークに減少傾向でしたが、2007年から同制度の活用が5年ぶりに増加して以降、活用する企業が増加してきているのが現状です。主に会社の経営状態によって施行される制度であることから、景気に左右されることが多いとされます。
日本型雇用慣行の変化を、コロナウイルスが加速化
希望および早期退職制度が整備されていること自体、日本企業の長期雇用及び年功序列制度を維持することが、企業の財務負担を圧迫し始めており、もはや維持することができなくなってきていることの表れだと言えます。コロナウイルスが、それらの活用状況を加速させた傾向があります。会社員であれば、こういった退職制度がいずれあることを想定し、いつでも転職できる状況に備えておくといざという時にも慌てなくて済むでしょう。先述のように、「会社都合退職」は、転職先の書類選考時に少なからず影響するものと考えられます。身勝手な理由で辞めたわけではないことを証明することはできますが、面接時での説明は必須になると言えます。そのため、どういった判断で、希望および早期退職制度を活用して会社を退職したのかについて、前向きに説明できるようにしておくことが大切です。
アメリカでは退職金制度はなく、確定搬出金制度で対応
アメリカには、日本のような一時金で支給される退職金制度はなく、自分で投資を行い、資産を積み立てる確定搬出金制度を採用しています。日本も、非課税口座を開設するなど、自分で退職金の代わりになる資産運用をしていく流れが加速化してきています。いずれは、日本のような退職金制度自体が、今後なくなる可能性も含めて考えていきたいですね。
まとめ
少子高齢化社会である以上、希望退職制度を実施する企業は、今後さらに増加していくものと推測できます。そのため、いつこの制度を活用しても良いようなキャリアの構築や、自分で稼げるスキルを培っておくことが重要になってくることでしょう。早期退職制度を利用するべきか否かはそれぞれにメリット、デメリットがあるため、利用すべきかどうかは慎重に検討する必要があります。その上で、同制度が実施された場合及び活用するタイミングが来た場合は、上手にそれらを活用して、まずは生計を守れるようにしておくと良いと言えます。
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