2024.08.30

給付金について

傷病手当金ってどんな制度?

私たちの多くは、働きながら生活をしています。そして働いている限りは少なからず収入を得ることができますよね。しかし、人生は思った以上に長く、時には精神疾患を始めとする病気や事故などのケガによって、仕事ができなくなる可能性もないとは言えません。もし、このような状態に陥ってしまうと、経済面で大きな不安が生じることでしょう。このような場合に役立つのが、傷病手当金の存在です。ここでは、傷病手当金について詳しく解説します。

傷病手当金の概要を知っておこう

傷病手当金の制度の目的と概要

傷病手当金とは、社会保険に加入している人(被保険者)を対象に、被保険者が病気休業をすることになった時、被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、病気やけがによって会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。

任意継続被保険者、および国民健康保険の加入者には傷病手当金の支給はないので、「会社員で健康保険組合に加入している人」と考えると良いでしょう。

傷病手当金は、思いがけない病気やケガで休業することになっても十分な保障を受けられるようにという目的のもと、制定された制度です。

「傷病手当金」と「傷病手当」は別物!?

名前が似ているので紛らわしいですが、傷病手当金と傷病手当は間違いなく別の制度です。

傷病手当金は健康保険から、傷病手当は雇用保険から支給される給付金で、対象も全く異なります。傷病手当金は「病気やケガで働けない人」を対象とした制度であり、会社の健康保険組合や共済組合等に加入している人が対象となりますが、傷病手当は受給する前提として「失業保険」の申請を行っている必要があります。「働ける状態で働き口を探している」人が、ハローワークで求職申込を行った後に病気やケガで15日間以上働ける状態にない状態になった時に初めて傷病手当の対象となります。

そのため、いくら名前が似ていても両方とも受給できる状況に陥ることはありません。申請を考えた時は間違えないように注意してください。

傷病手当金は申請する本人(被保険者)が加入している健康保険組合から支給されるものですので、ハローワークや会社から支給されるわけではありません。なお、傷病手当金は、休職中に会社側が給料を支給しない場合に適用されます。傷病手当金は給与と重複して受け取ることができません。そのため、有給期間の申請をしても、その期間の手当は発生しないのです。

また、業務以外での病気やケガが対象となるので、業務中に仕事の作業などが原因で怪我をした場合などは傷病手当金の対象になりません。その場合は労災保険の対象となります。

健康保険組合の制度

傷病手当金は健康保険組合が定めている制度で、勤めている会社の健康保険に加入している人が対象になります。そのため、国民健康保険加入者は対象外ですので、注意しましょう。しかし、稀に国民健康保険でも、傷病手当金の制度がある場合があります。名称が同じだけで制度の中身が別物という場合もごく稀に確認されています。反対に、加入している健康保険組合によっては、社会保険だったとしても傷病手当金の制度自体がない場合もあるので、事前に確認しておくことが大切です。

加入している健康保険組合に傷病手当金の制度があるかどうかは、健康保険組合のホームページを確認するのが一番早いでしょう。「病気やケガで働けなくなったとき」「休職したとき」など、健康保険組合によって表記は様々ですが、傷病手当金の制度について記載されています。

傷病手当金の支給条件

傷病手当金の支給条件は、下記の4つの条件をすべて満たす必要があります。

日本で一番大きな健康保険組合である「全国健康保険協会」に加入している方が多いですが、その他の健康保険組合も、基本的な支給要件は変わりません。しかし、申請書類や細かな手順は健康保険組合ごとに異なります。必ず自分が加入している健康保険組合のホームページを見て確認するようにしてください。もしもホームページがない健康保険組合の場合は、会社の人事や総務部の方に確認しておくと良いでしょう。

業務外の病気やけがであること

傷病手当金は業務外の病気やけがであることが前提です。そのため、仕事中に負ったけがなどは対象になりません。仕事中や通勤途中にけがをしてしまった場合は業務上の災害として労災保険の給付対象となります。業務に起因する病気やけがでなければ傷病手当金の対象になるものは幅広くあります。例えばインフルエンザや胃腸炎など、原因が分からないものでも対象となり得るのです。

労務不能状態であること

「働けない」と判断するのは自分ではありません。医師など療養担当者の診断が必要となります。医師の意見とあわせて本人の仕事内容を鑑みたうえで総合的に判断されます。例えば腰痛を患っているタクシー運転手の場合、日常生活に支障はなくても、長時間座っていることが難しいと判断された場合は「労務不能」と見なされる場合があります。そのため、医師に自分の仕事内容を伝え、その症状によってどのような支障があるのかをきちんと伝えておくと良いでしょう。どんなに働くのがつらい状態であっても、医師が正しく認識してくれない場合は「労務不能状態」とみなされない可能性があります。

連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること

傷病手当金を受給するためには、会社をどの程度休んだのかが重要です。連続して3日間以上休んだ場合に、4日目以降から支給される決まりとなっています。この「連続した3日間のお休み」のことを「待期期間」と呼びます。傷病手当金の制度上、必ず3日以上休まなければいけません。

待期期間の間は傷病手当金が発生せず、4日目から支給されます。例えば「4月1日~4月4日」を休んで申請した場合は、「4月1日~4月3日」が待期期間としてカウントされ、「4月4日」の一日分が支給されます。そのため、実質4日以上休んだ場合に支給対象となるのです。

3日以上の期間には、平日だけをカウントするのではなく、原則として土日や祝日も含まれます。ただし一部の健康保険組合ではカウントされない場合があります。万が一待期期間が足りなかった場合には、傷病手当金の申請を行うことができません。そのため、こちらも、傷病手当金の申請を行う前にあらかじめ確認しておくと良いでしょう。

なお、一般的に待期期間は土日祝日を含むことができるとされているため、下記の図を参考にしてください。全国健康保険協会のホームページにて解説されていますが、必ず連続した3日間を休む必要があります。

 

休業期間内において、給与の支払いがないこと

傷病手当金は、休業中の給与保障という位置づけがあります。そのため、給与と重複して受け取ることはできません。たとえば有給で4日以上連続で休んでいても、休んだ期間が全て有給の場合は、傷病手当金を受給することが出来ません。ただし、休業期間中に支払われた給与の額が、傷病手当金の支給額よりも少なかった場合、傷病手当金との差額分が支給される場合があります。

★参考リンク

全国健康保険協会 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

健康保険法 第九十九条

傷病手当金の計算方法・支給期間・対象者

傷病手当金の計算方法

傷病手当金の支給金額には個人差があります。

1日あたりの傷病手当金(日額)は、【直近12ヵ月の標準報酬月額を平均した金額÷30×2/3】という計算式で計算されます。例えば過去12ヶ月のうち、10ヶ月の標準報酬月額が30万円、2ヶ月の標準報酬月額が26万円だった場合は下記のようになります。

 例:(30万円×10ヶ月+26万円×2ヶ月)÷12ヶ月 ]÷30日×2/3=6,520円

標準報酬月額は、会社によっては給与明細に記載されている場合があります。また、保険料額表、標準報酬月額決定通知書などでも確認することができます。保険料の金額と標準報酬月額表を照らし合わせることで標準報酬月額区分と等級を確認することが出来るので、まずは給与明細を確認してみてくださいね。

もしも標準報酬月額が分からず、毎月の給与にそれほど変動がないという場合は【月の給与×60%~65%】で大まかな受給金額の目安を計算することができますよ。

標準報酬月額とは

毎月の給与の金額に応じて、1~50の等級に分けられていて、厚生年金保険料や健康保険料の金額を算出する際に利用されるものです。通勤手当や家族手当、住宅手当なども含まれますが、臨時に支給されるものは含まれません。

標準報酬月額は、毎年9月に4月から6月の報酬月額を基に定時決定で改定されます。その年の4月〜6月の3ヶ月間の給与が基準とされるため、4月~6月の給与が高い場合などは等級も上がり、保険料も上がってしまいます。「4月~6月に残業をしない方が良い」と言われているのはこのためです。

【4〜6月の3ヶ月間の給料の合計÷3】が標準報酬月額の算出方法となります。4月~6月の給与明細がある場合は確認してみてください。また、標準報酬月額については全国健康保険協会のホームページ内「協会けんぽの標準報酬月額・標準賞与額とは?」でも詳しく紹介されています。

参照:保険料額表(全国健康保険協会:令和5年度東京都版)

令和5年度での東京都の場合、下記のような受給金額となります。

等級 標準報酬月額 傷病手当金日額
17 200,000円 4,333円
20 260,000円 5,633円
23 320,000円 6,933円
27 410,000円 8,883円

※1年間の標準報酬月額が変わらず、「0.65%」で計算した場合

傷病手当金の支給期間

傷病手当金の申請を行い、審査が通れば最長1年半(18ヶ月)まで手当金が支給されることになります。1年を超える期間をカバーしてもらえるので、治療や回復に時間がかかる傷病であっても、焦ることなく療養できると言えるでしょう。令和4年1月1日より法令が変わり、支給開始日から通算して18ヶ月受け取ることができるようになりました。しかし、支給開始日が令和2年7月1日以前の場合は、支給開始日から18ヶ月間となります。支給開始日によって支給期間が異なるので、下記の図を参考にしてください。なお、これから初めて傷病手当金の申請を行うといった場合は、通算して18ヶ月の受給が可能となります。

参考:全国健康保険協会(協会けんぽ) 病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

受給を続けるには注意点もあります。最長18ヶ月もらえるのは事実ですが、それはあくまでも「働けない状態」である場合です。働ける状態である場合、傷病手当金の支給対象とはなりません。そのため、18ヶ月を迎えるまでに途中で復職した際には、その時点で支給が打ち切りとなります。傷病手当金は「病気やケガで働けない人」を対象に支給されるため、復職しているということは働ける状態にあると判断されるので、傷病手当金の支給対象から外れることとなるのです。

傷病手当金の対象者

傷病手当金の支給対象となるのは、下記の条件を全て満たした人です。

  • 業務外の病気やけがであること
  • 労務不能状態であること
  • 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
  • 休業期間内において、給与の支払いがないこと

どれか一つでも満たしていない場合は、傷病手当金の対象とはなりません。例えば業務中のけがなら労災補償の対象になり、休業期間に有給などで給与が発生している場合は傷病手当金の支給がなくなるといった具合です。また、申請を行うには、自身が加入している健康保険組合のフォーマットの書類を使用し、申請を行う流れとなります。申請の際には自分だけでなく、医師の証明と会社の証明も必要です。

休職期間

「傷病手当金が1年半もらえるということは、つまり1年半休職できるんですよね?」

そうした誤解が多く生まれています。実は、休職という制度は会社によって異なります。会社の裁量によって休職の制度の中身が違うのです。例えばある会社では、会社独自の「休職手当」という、傷病手当金とは異なる会社から発生する手当があったりします。ただ、別の会社では休職という制度自体が認められず、「働けなくなったら退職勧奨」という環境もありえるのです。休職中も会社はその社員に対して社会保険料の半額を支払う義務があります。そのため、給与の支払いがなくても会社としてはコストがかかっているわけです。そうした背景から、中小企業では休職制度を設けていない会社も少なくありません。

つまり傷病手当金の申請可能となる期間が最長1年半であっても、会社で休職できるのが1年半とは限らないのです。

休職できない場合もある?

休職できないかもしれないというのは、休職を希望する人にとってはショックかもしれません。実は、休職制度は特に法律で定められているわけではないので、会社が休職制度を設けなければいけない理由はないのです。会社の就業規則に休職の項目がない場合は、休職を認めてもらえないケースが多く見られます。休職を検討する前に、会社の就業規則を確認してみましょう。役職や勤続年数などに応じて休職できる期間が異なる場合もあるので注意してください。

会社が休職を認めてくれない場合は?

会社に休職制度がない場合は、諦めるしかないのでしょうか。せっかく制度を利用できるチャンスがあるのに、それはもったいないですよね。もしも退職をするのであれば、退職日の直前の4日間以上を欠勤にできないか相談してみましょう。社会保険の利用は従業員の権利でもあるので、傷病手当金の制度を使いたいということを伝えても構いません。もしも退職前に欠勤日を数日以上確保できれば、資格喪失後の継続給付の条件を満たして、傷病手当金の申請ができるようになる可能性があります。休職ができない場合はせめて退職後に療養の期間を確保したいですよね。傷病手当金の資格喪失後の継続給付の条件を満たすことができれば収入の不安も解消できるので安心です。

なお、一定期間休職して傷病手当金を受給した末に復職することなく退職した場合も、条件を満たしていれば傷病手当金を継続して受け取ることができます。傷病手当金には「資格喪失後の継続給付」という制度があり、条件を満たすことで退職後も引き続き傷病手当金を受給することができます。1年半という期間には変わりありません。そのため、退職したとしても会社の健康保険に1年以上加入していた場合は、退職後も変わらず、支給開始日から1年半までは申請することが可能です。詳しくは「労務不能」と「傷病手当金」を解説します」にて紹介しているので参考にしてください。

病気やケガが治ったら?

傷病手当金は、病気やケガで働けない人のための手当です。そのため、治療している病気やケガが治ったら、支給は打ち切りとなります。医師が治ったと診断した後は、傷病手当金の支給対象ではなくなるため、申請書に記入してくれません。そうなると自動的に、それ以上傷病手当金の申請を行うことができなくなるのです。

申請をやめる場合は、特に健康保険組合へ連絡する必要はありません。もちろん休職中の場合は復職について会社と相談する必要がありますので、会社への連絡が必要です。いくら完治したとは言え、復帰直後は以前と同じ仕事量は難しいでしょう。無理をすれば再発してしまうおそれもあるので、少しずつ慣れていけるよう、会社の人と相談しながら業務量を調整できるのが理想と言えます。

傷病手当金についてよくある疑問

今更聞けない…誰に聞いたらいいのか分からない…退職コンシェルジュではそうしたお声をよくいただいています。ここでは、傷病手当金についてよく知らない方からいただくお声の中で、特によくある疑問をいくつか紹介しますね。

受給できるまでどのくらいかかりますか?

申請書類のご記入と、健康保険組合での審査にかかる時間により前後します。書類が全て揃った後は健康保険組合へ提出し、健康保険組合での審査が終わった後に支給となるためです。書類の記入は被保険者の他にも医師、会社に記入してもらう必要があります。そこで時間がかかってしまうケースもあるため、一概には言えません。ただ、平均的に健康保険組合での審査期間は3週間~1ヶ月ほどが多く見られます。

自分の症状では傷病手当金の対象かどうか分からない…

条件の中の一つ「労務不能状態であること」の判断は医師が行います。そのため、傷病手当金の申請を考えている場合は医師に相談してみると良いでしょう。病院によっては傷病手当金の手続きについて教えてくれる場合もあります。「連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること」「休業期間内において、給与の支払いがないこと」について分からない場合は、勤めている会社の総務などに確認してみるのがお勧めです。

会社に何かデメリットはありますか?

従業員が傷病手当金を申請することによる会社のデメリットは特にありません。強いて言えば書類の記入をしなくてはいけないため、人事や総務など、担当者の負担が一時的に少し増えるというだけです。給付金は健康保険組合から支給されるため、会社から支給される給与ではありません。金銭的に会社へ不利益を与えるようなものではないので安心してください。

傷病手当金は失業保険と同時に受給できますか?

結論から言うと、傷病手当金と失業保険は同時に受け取ることができません。傷病手当金は「病気やけがで働けない状態の人」、失業保険は「働ける状態で働き口を探している人」という区分があるため、同時に両方に該当するということは有り得ないためです。

入院するような重症でないと申請できないのでは…?

傷病手当金は、自宅療養の場合でももらうことが可能です。傷病手当金は入院しているか否かは関係なく、労務不能な状態であるかどうかに焦点を当てています。そのため、自宅療養でも入院でも手当は受給できますので、安心してくださいね。しかし、病気やケガで療養をしていると証明するために、きちんと医師の治療を受けている必要があります。

まとめ

会社の健康保険に加入していれば、万が一病気やケガで働くことができなくなっても、傷病手当金を申請することで経済面をサポートしてもらうことが可能となります。休職中は治療費もかさむことも珍しくないので、傷病手当金を受給できれば心身ともに安心して療養することができるでしょう。休職中の傷病手当金の申請には4つの条件があり、その条件を全て満たした場合は申請できます。条件を確認の上、申請したい場合は会社や医師に相談してみると良いでしょう。

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