2025.12.26
給付金について
傷病手当金と副業の関係をわかりやすく解説

「会社を休業して傷病手当金をもらっているけれど、副業をしても大丈夫なのだろうか」
この疑問は、実際に休職中の方から非常に多く寄せられます。給与が止まり、傷病手当金だけでは生活が不安になる中で、「本業は難しいけれど、少しならできそう」「在宅でできる副業なら問題ないのでは」と考えるのは自然なことです。
しかし、傷病手当金は「働けない状態にある人」を前提とした制度です。 そのため、本業を休業している理由と、副業の内容によっては、 傷病手当金が支給停止・不支給・返還になるリスクもあります。
重要なのは、「副業かどうか」や「収入が少ないかどうか」ではありません。 本業を休業している理由と、副業の実態が矛盾していないかが判断の軸になります。
この記事では、「会社に在籍したまま休業している方」を前提に解説していきます。
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本業を休業している間でも副業はできるのか
まず多くの方が気になるのが、「休業中でも副業は一切できないのか?」という点です。
結論から言うと、 法律上「休業中の副業が一律禁止」されているわけではありません。 しかし、傷病手当金の制度上は、副業の内容によって支給要件を満たさなくなる可能性があります。
その判断に大きく関わるのが、傷病手当金の支給要件です。
傷病手当金の支給要件(休業中の会社員の場合)
協会けんぽでは、傷病手当金の支給要件を次のように定めています。
| 傷病手当金の支給要件 |
|---|
| 1. 業務外の病気やけがで療養中であること |
| 2.労務不能であること |
| 3. 連続する3日間の待期期間を満たしていること |
| 4. 休業期間中に給与の支払いがない、または減額されていること |
この中で、副業との関係で最も重要なのが「労務不能」という考え方です。
「本業を休業している理由」と「副業」が矛盾すると問題になる
傷病手当金における「労務不能」とは、単に「会社に行っていない」という意味ではありません。
本来の業務(=本業)を行うことができない状態かどうか が判断されます。
そのため、次のような状況は特に注意が必要です。
- 精神的な理由で本業を休業しているが、副業では集中力を要する作業をしている
- 身体的な理由で休業しているが、副業で同等の身体負荷がかかっている
- 「本業は無理だが、副業ならできる」という説明が制度上成り立たない
健康保険組合は、医師の意見欄・事業主の記載・実際の行動を照らし合わせて、「本当に労務不能といえるか」を判断します。
この時、副業の存在が、本業を休業している理由と矛盾している と判断されると、傷病手当金の支給は難しくなります。
休業中の副業が問題になりやすい理由
「副業は本業とは全く別の仕事だから大丈夫だと思っていた」という声は少なくありません。 しかし、制度上は職種の違いよりも、 就労できているかどうか が重視されます。
たとえば、
- 営業職を休業中に、在宅でライティングを行う
- 立ち仕事が難しく休業中に、座り作業の副業を行う
といった場合でも、「労務不能ではないのではないか」と判断される可能性があります。
休業中の副業は、「できるかどうか」ではなく「説明がつくかどうか」 が非常に重要です。
休業中に「不支給・返還」になりやすい副業パターン
本業を休業している間の副業で最も注意すべき点は、「どのような副業が問題になりやすいのか」を具体的に把握しておくことです。
傷病手当金は、「働けない状態にあること」を前提に支給される制度であるため、副業の内容によっては、支給停止・不支給・すでに受給した分の返還につながるケースもあります。
ここで重要なのは、副業の種類そのものよりも、本業を休業している理由と説明がつくかどうかです。
「在宅なら大丈夫」と誤解されやすいケース
休業中の方から特に多いのが、次のような考え方です。
- 通勤がない在宅作業だから問題ない
- 短時間だけなら大丈夫だと思った
- 本業とは内容が全く違う
しかし、傷病手当金の判断では、「在宅かどうか」「短時間かどうか」は本質ではありません。
たとえば、
- 精神的な理由で本業を休業している
- 一方で、在宅で毎日ライティングやデータ入力を行っている
この場合、健康保険組合から見ると、
「集中力を要する作業ができている=労務不能とは言えないのではないか」
と評価される可能性があります。
在宅ワークであっても、継続性や業務内容によっては、本業を休業している理由と矛盾すると判断される点に注意が必要です。
「収入が少ない副業」でも安心できない理由
「副業収入が少額だから問題ないのでは」と考える方も少なくありません。
しかし、傷病手当金の制度では、副業収入の金額そのものは判断基準ではありません。
重要なのは、
- 労働を提供しているか
- 継続的に業務を行っているか
- 本業の休業理由と矛盾しないか
たとえ月数千円〜数万円程度の収入であっても、就労性が認められれば、労務不能とは評価されなくなる可能性があります。
不支給・返還につながるリスクについて
厚生労働省は、傷病手当金を含む社会保険給付について、次のような場合に不正受給となる可能性があると示しています。
- 働ける状態であるにもかかわらず給付を受ける
- 就労の事実を隠して申請する
- 虚偽の申告を行う
休業中の副業がこれらに該当すると判断された場合、
- 今後の傷病手当金が支給停止になる
- すでに受給した分の返還を求められる
といった対応が取られることがあります。
休業中の副業はどのように把握されるのか
「副業が問題になるのは分かったけれど、実際にはどうやって知られるのか」という点は、多くの方が気にするポイントです。
結論から言うと、休業中の副業はさまざまなルートから把握される可能性があります。 「申告しなければ分からない」「少額だから大丈夫」という考え方は、実務上リスクが高いと言えます。
ここでは、健康保険組合や会社が副業の存在を把握する主な仕組みについて整理します。
申請書類から把握されるケース
傷病手当金の申請では、次の3者が関与します。
- 本人
- 医師
- 事業主(会社)
この3者が記載する内容に矛盾があると、健康保険組合は確認を行います。
たとえば、
- 医師の意見欄では「労務不能」とされている
- 一方で、生活状況や申告内容から活動量が多いと推測される
といった場合、副業の有無を含めた追加確認が行われることがあります。
特に、休業期間が長期化している場合や、支給が継続している場合には、申請内容が丁寧にチェックされる傾向があります。
住民税から副業が判明するケース
休業中の副業が把握される代表的なルートの一つが、住民税です。
副業によって収入が発生すると、翌年度の住民税額に影響します。 多くの会社員は住民税が「特別徴収(会社経由)」となっているため、
- 前年と比べて住民税額が不自然に増えている
- 休業中なのに課税所得がある
といった点から、副業の存在が疑われることがあります。
「普通徴収を選べば会社に分からない」と考える方もいますが、自治体の運用や状況によっては必ずしもそうとは限らず、完全に隠せるわけではありません。
支払調書・税務情報から把握されるケース
フリーランスや業務委託として副業を行った場合、報酬を支払った側が税務署へ支払調書を提出します。
これにより、
- 本人が申告していない収入
- 休業中に発生している報酬
が、税務上把握されることになります。
税務署と健康保険組合が常に情報共有しているわけではありませんが、
申請内容と税務情報にズレが生じた場合、確認が入るきっかけになることがあります。
SNSや公開情報がきっかけになることもある
近年増えているのが、SNSやブログ、動画配信などの公開情報がきっかけとなるケースです。
- 「仕事を再開しました」と取れる投稿
- 継続的な制作活動の様子を発信している
- 明らかに業務として行っていると分かる内容
これらが直接調査につながるケースは多くありませんが、他の情報とあわせて 「労務不能と矛盾する行動」と判断される材料になることがあります。
発覚後の流れと対応
副業の存在が疑われた場合、健康保険組合は次のような対応を取られる可能性があります。
- 本人または事業主へ事実確認
- 医師の意見内容との整合性確認
- 就労実態の確認
- 必要に応じて支給停止・返還の判断
この段階で重要なのは、「後から説明すれば大丈夫」と安易に考えないことです。
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休業中に副業を考える前に必ず整理すべきポイント
「副業をしても大丈夫か」を判断する前に、必ず整理しておくべきポイントを解説します。 この整理が不十分なまま副業を始めてしまうと、後から取り返しがつかない事態になることもあります。
① 本業の内容と休業理由を言語化できているか
最初に整理すべきなのは、「なぜ本業を休業しているのか」です。
傷病手当金の判断では、
「本業を行うことができない理由」
が極めて重要になります。
たとえば、
- 精神的な不調により、対人業務や判断業務が難しい
- 身体的な理由で、長時間の立ち仕事や重い作業ができない
といったように、本業のどの部分ができないのか を自分自身が説明できる状態にしておく必要があります。
ここが曖昧なまま副業を始めると、後から
「ではなぜ副業はできるのか?」
という問いに答えられなくなってしまいます。
② 医師の診断内容と副業が矛盾していないか
傷病手当金の申請では、医師が記載する意見欄が非常に重要です。
医師の診断書や意見欄に、
- 安静が必要
- 集中力を要する作業は避けるべき
- 就労は困難
といった内容が記載されている場合、それと矛盾する副業を行うと、支給判断に大きな影響を与えます。
重要なのは、「医師に副業をしてもよいか確認しているか」ではなく、
書面上の診断内容と実際の行動が一致しているか
です。
③ 「副業の内容」を第三者目線で説明できるか
副業を考える際には、自分の感覚だけで判断しないことが重要です。
たとえば、
- 自分では「気分転換のつもり」
- 「少し作業しているだけ」
と感じていても、第三者から見ると
「継続的な業務」「明確な労働」
と評価されることがあります。
健康保険組合や会社、場合によっては医師が見たときに、
- どのくらいの頻度で
- どのような作業を
- どの程度の時間行っているのか
を説明できるかどうかは、非常に重要な判断材料になります。
④ 会社の就業規則・休業規程を確認しているか
休業中の副業は、傷病手当金の問題だけでなく、会社との関係にも影響します。
多くの会社では、
- 休業中の副業を制限している
- 許可制としている
- そもそも副業を禁止している
といった規定を設けています。
たとえ傷病手当金の制度上問題がなかったとしても、就業規則違反となれば、懲戒や復職時のトラブルにつながる可能性があります。
⑤ 「万が一指摘された場合」の説明を想定しているか
副業を行う前に、
「もし健康保険組合や会社から説明を求められたら、どう答えるか」
を一度考えてみることが重要です。
このとき、
- 本業を休業している理由
- 医師の診断内容
- 副業の実態
が一貫して説明できない場合、その副業はリスクが高いと言えます。
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休業中によくある副業ケース別の判断ポイント
ここまでで、休業中の副業が問題になる理由や、事前に整理すべきポイントを解説してきました。
第5分割では、実際に相談が多い「休業中によくある副業ケース」 を取り上げ、 それぞれがどのように判断されやすいのかを、本業との関係性に着目して整理します。
あくまで一般的な傾向であり、最終判断は個別事情によって異なりますが、 自分の状況と照らし合わせるための参考としてご覧ください。
ケース① ブログ・アフィリエイト
休業中の副業として非常に多いのが、ブログ運営やアフィリエイトです。
このケースでは、「どのタイミングの作業か」が大きな判断ポイントになります。
- 休業前に書いた記事が読まれ、広告収入が発生しているだけ
- 自動的に成果が発生しており、新たな作業をしていない
このような場合は、就労と判断されにくい傾向があります。
一方で、次のような行為がある場合は注意が必要です。
- 休業中に新しい記事を継続的に執筆している
- アクセスを増やすための施策を行っている
- 記事のリライトや構成見直しを頻繁に行っている
これらは、「本業はできないが、継続的な業務はできている」と評価される可能性があります。
ケース② 在宅ワーク(ライティング・データ入力など)
在宅ワークは「通勤がない」「身体的負担が少ない」という理由から、 休業中でも問題ないと考えられがちです。
しかし、実務上は最もリスクが高い副業の一つです。
特に、
- 精神的な理由で本業を休業している
- 集中力や判断力が必要な業務を在宅で行っている
このような場合、
「業務遂行能力があるのではないか」
と判断される可能性が高くなります。
在宅であることや、作業時間が短いことは、必ずしも免罪符にはなりません。
ケース③ 単発アルバイト・業務委託
単発であっても、アルバイトや業務委託は、ほぼ確実に就労と判断されます。
たとえば、
- イベントスタッフ
- 短時間の接客業
- スポットでの業務委託
これらは、労働の対価として報酬を受け取っているため、 本業の休業理由との整合性を説明するのが非常に難しくなります。
「単発だから」「一度きりだから」という理由は、制度上ほとんど考慮されません。
ケース④ メルカリ・ネット物販
物販については、「生活整理」と「事業性」が大きな分かれ目になります。
- 自宅の不用品を処分しているだけ
- 一時的な売却で継続性がない
このような場合は、就労と判断されにくいことがあります。
一方で、
- 仕入れを行っている
- 継続的に出品・発送をしている
- 明確に利益を目的としている
場合は、副業としての就労性が高いと判断されやすくなります。
ケース⑤ 家業の手伝い
家業の手伝いは、「身内だから問題ない」と考えられがちですが、注意が必要です。
判断のポイントは、
- 手伝いの頻度・時間
- 業務内容の負荷
- 報酬の有無
短時間・無償・軽微な手伝いであれば問題にならないケースもありますが、 継続的で労働性が高い場合は就労と判断される可能性があります。
休業中の副業をめぐる誤解と注意点
最後に、休業中の副業について特に多い誤解を整理します。
| よくある誤解 | 制度上の正しい考え方 |
|---|---|
| 在宅だから問題ない | 在宅であっても、 就労性があれば問題になる |
| 収入が少ないから大丈夫 | 金額の多寡は判断基準ではない |
| 本業と違う仕事だからOK | 本業との 業務内容の違いではなく整合性 が重視される |
| 誰にも言わなければ分からない | 住民税・申請書類など 複数の把握ルートがある |
傷病手当金の判断では、一貫して「本業を休業している理由」との整合性が問われます。
この記事のまとめ:休業中の副業と傷病手当金の正しい向き合い方
本業を休業している間の副業と傷病手当金の関係について、重要なポイントを整理します。
- 副業が一律に禁止されているわけではない
- 判断軸は「本業を休業している理由との整合性」
- 在宅・少額・単発でも就労と判断される可能性がある
- 医師の診断内容と行動の矛盾は大きなリスクになる
- 不支給・返還だけでなく、将来の制度利用にも影響する
傷病手当金は、「療養に専念するための制度」です。 短期的な不安から無理に副業を行うよりも、制度の趣旨を理解したうえで、 自分の状況に合った選択をすることが大切です。
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この記事の監修者
萩原 伸一郎
ファイナンシャルプランナー(FP)資格を持ち、東証一部上場企業に入社。資産形成、資産運用、個人のライフプランニングなどを経験。これまでに10,000名以上の退職後のお金や退職代行に関する相談などを対応した経験から、社会保険や失業保険についてわかりやすく解説。
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