2025.12.04
社会保険について
傷病手当金は退職後もらえない?受給できる条件と不支給になる理由を徹底解説
この記事でわかること
退職後の傷病手当金について調べると、「結局、自分はもらえるのか?」「退職した瞬間に対象外になるのでは?」といった不安を抱く方がとても多いようです。制度そのものはシンプルなのですが、細かい条件があるため、誤解が広がりやすい分野でもあります。
この記事では、退職後に傷病手当金がもらえないケースと、その理由をわかりやすく整理しています。
よく寄せられるのは、次のような悩みです。
・退職後に体調が悪化したけど支給対象になるのか気になる
・会社にいる頃から体調が悪かったのに、退職後は申請できないと言われた
・待期期間や労務不能の証明など、どこがポイントなのかわかりづらい
・退職前に何をしておけばよかったのか知りたい
こうした疑問に対して、制度に基づき説明していきます。
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傷病手当金は退職後も受け取れる?まずは制度の基本を整理
退職後の受給可否を判断するためには、「傷病手当金とはどういう制度なのか」を押さえておく必要があります。
「健康保険法」に基づき、傷病手当金について次の要件が定められています。
傷病手当金の目的と支給要件
傷病手当金は、病気やケガによって働けず給与が受け取れないときに生活を支えるための制度です。
支給されるための主な条件は以下の4つです。
- 病気やケガで労務不能であること
- 連続する3日間の待期期間が成立していること
- 給与(報酬)が支給されていないこと
- 健康保険の被保険者であること
このうち「労務不能であるかどうか」と「退職前に待期期間が完成しているか」は、退職後の受給可否を大きく左右します。
退職後でも継続給付が認められる仕組み
退職後に傷病手当金が支給される場合は、制度上「継続給付」と呼ばれます。
継続給付として支給されるためには、次の2つを満たす必要があります。
① 退職日の時点で医師が労務不能と判断できる状態であること
② 退職前に初診日以降、連続3日間の待期期間が完成していること
この2点がそろっていれば、退職後も支給が続きます。 逆に、どちらか一方でも欠けている場合は継続給付の対象外となります。
退職後に傷病手当金が“もらえない”主なケース
退職後の傷病手当金は「一定の条件を満たしていれば受給できる制度」ですが、実際には不支給になるケースも多くあります。ここでは、代表的なパターンを整理していきます。
① 退職日の時点で労務不能が証明できていない
退職後にも傷病手当金を受け取り続けるためには、「退職日時点で労務不能であること」が必須条件です。
この点を満たしていないと継続給付の対象にはなりません。
例えば以下のようなケースは受給が難しくなります。
ここで判断基準となるのは
退職後ではなく「退職した日の状態」であること
です。
医師への証明依頼のタイミングは退職後でも問題ありませんが、その際に医師が退職日時点の状態を判断できない場合、継続給付は認められません。
② 退職前に連続3日間の待期期間が完成していない
誤解が多いポイントとして、「給与が支払われていると待期にならない」がありますが、これは正しくありません。
有給休暇で給与を受け取っていても、出勤扱いでなければ待期に含まれます。
⚠️ 不支給となる典型例
- 退職直前まで連続して勤務しており、待期が完成していない
- 休みがあっても「連続3日間」になっていない
- 短時間勤務などで出勤扱いの日が途中に混ざっている
※待期が完成していない場合、退職後であっても傷病手当金は支給されません。
③ 退職後に就労を行い、収入があった場合
⚠️ 就労による不支給となるケース
退職後に就労で収入が発生した場合、その期間は傷病手当金の支給対象外となります。 具体的には次のようなケースが該当します。
- 短時間のアルバイトをした
- 副業収入が発生している
- 会社へ単発で出勤した
- 実質的に働いたと判断される活動がある
※「働ける状態」とみなされると、その期間は支給されません。
1日でも働いたとみなされる場合、その日については支給されません。
また、「働ける状態」と判断されると労務不能の継続性が否定され、支給が止まる可能性があります。
④ 医師の証明が途切れてしまい、継続性が確認できない
退職後の傷病手当金でも、医師の意見書は必須です。
ただし要件は「診断書の取得時期」ではなく、「退職日時点を含め、労務不能と判断できるかどうか」です。
⚠️ 不支給につながる代表的なケース
以下のような状況では、症状の継続性が確認できず、傷病手当金が不支給となる可能性があります。
- 受診間隔が空きすぎており、病状の継続が確認できない
- 医師が退職当時の状態を判断できない
- 退職後の受診で症状の連続性が確認されなかった
- 治療が中断しており、医学的な証明がつながらない
※診察の間隔が空きすぎると「症状が続いていない」とみなされる場合があります。
これは法律で定められた不支給要件ではなく、
医学的に継続性が証明できないため労務不能の判断ができない
という理由によるものです。
よくある誤解:「退職後に発症したら?」「退職後に初めて受診したら?」
退職後の傷病手当金は、制度の仕組みが複雑に見えることから、多くの誤解が生まれやすい分野です。ここでは特に質問の多い内容を中心に整理していきます。
退職後に病気が悪化した場合はどうなる?
もっとも多い誤解のひとつが
「退職後に体調が悪化したら傷病手当金を申請できるのでは?」
というものです。
結論としては、退職後に初めて労務不能となった場合は傷病手当金の対象にはなりません。
理由は制度が「退職日時点で労務不能であること」を継続給付の条件としているためです。
つまり、
となります。
ただし、退職前から症状があり、退職日時点で労務不能と判断できる場合は対象に含まれます。
退職後に一度働いてしまったらどうなる?
退職後に短時間でも働くと、その期間は傷病手当金が不支給となる仕組みです。
しかし、ここには注意点があります。
・就労した日の分が不支給になる
・働いている=働ける状態 → 労務不能の継続が否定される可能性がある
アルバイトなど、収入が発生する行為があると「労務不能」ではなくなるため、継続給付の要件を満たせません。
退職後に傷病手当金が途中で止まる典型パターン
退職後に一度は傷病手当金を受給できた場合でも、その後の状況によっては支給が止まることがあります。
よくある例は以下の通りです。
・受診間隔が空きすぎて継続性が確認できない
・症状が軽快したと判断される
・働けると判断される行動があった
とくに「受診間隔が長すぎる」は非常に多い理由で、1〜2か月以上空くと、医師が状態を正しく評価できなくなり、継続性が否定されることがあります。
傷病手当金を退職後にもらうために必要な条件
ここまでを踏まえて、退職後に傷病手当金を受け取るためには、退職前の準備が極めて重要だとわかります。
退職後の“継続給付”が成立する具体的条件
継続給付が認められるためには、次の条件が必要です。
・退職日時点で労務不能だった
・退職前に待期が完成している
・働ける状態とみなされる行動がない
・医師が退職日時点の状態を判断できる
・労務不能の状態が継続していること
退職前に準備しておくべきこと
・退職前から医師に症状を相談しておく
・初診日以降に待期(連続3日間)を確実に作る
・退職日が出勤扱いにならないよう確認
・退職後に申請を検討している旨を会社へ伝えておく
・受診・治療の記録を残しておく
医師の証明を確保するためのポイント
・退職前から診察履歴を作っておく
・症状の変化や具体的な状態を正確に伝える
・受診間隔を空けすぎない(1〜2か月以上は避ける)
・治療の中断をしない
退職後にもらえなかったときに利用できる代替制度
退職後に傷病手当金が受給できなかった場合でも、状況に応じて利用できる制度はいくつかあります。
失業給付(求職者給付 / 雇用保険)
傷病手当金が使えないときにまず検討される制度です。
雇用保険法に基づき、失業中の生活を支える役割があります。
注意点としては以下のとおりです。
・傷病手当金との同時受給は不可
・求職活動ができる「働ける状態」であることが必要
離職理由によって給付日数が変わる点にも注意が必要です。
自立支援医療(精神通院医療)
精神疾患の場合に利用される制度で、通院医療費の負担を大きく軽減できます。
【特徴】
・通院医療費の自己負担が原則1割に軽減
・収入状況に応じた負担上限額が設定
・精神科・心療内科への通院が対象
精神疾患で通院する際に特に利用される制度です。
生活福祉資金 / 総合支援資金など(自治体窓口)
生活そのものが厳しい場合、自治体や社会福祉協議会で利用できる貸付制度があります。
【特徴】
・生活費・医療費など幅広い用途に利用できる
・単身世帯や低所得世帯が対象
・緊急性が高い場合は迅速に相談に乗ってもらえる場合がある
傷病手当金の代わりとして生活を支える手段にもなり得ます。
退職後の傷病手当金が「もらえない」と言われたときのQ&A
対応してもらえない場合は、加入していた健康保険組合へ相談できます。
また、働ける状態=労務不能ではない と判断され、継続給付が認められない場合もあります。
ただし、退職前に要件を満たしていれば「継続給付」として受給できます。
まとめ:退職後の傷病手当金は「条件がそろえばもらえる」が、1つでも欠けると不支給になる
ここまで退職後の傷病手当金について詳しく整理してきました。
結論としては次のとおりです。
・退職後でも傷病手当金は受給できる
・ただし、継続給付として扱われるには厳密な条件がある
・条件が1つ欠けると退職後の受給は難しい
特に、退職後の受給可否を分けるポイントは以下の2つに集約されます。
この2点を満たしていない場合、どれだけ退職後に症状が悪化していても継続給付の対象にはなりません。
おわりに
退職後の傷病手当金は、制度の条件さえ満たしていればきちんと受給できる制度です。
ただし、退職前後の準備や行動によっては受給できなくなるケースも多く、ポイントを押さえておくことが何より重要です。
本記事で紹介した「条件」「気を付けるポイント」「チェックリスト」を参考にしながら、あなたの状況に照らして判断することで、制度をより正しく活用できるはずです。
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