2025.12.01

給付金について

傷病手当金をもらえない9つのケースとは?申請前に確認すべき条件と対処法を解説

会社と傷病手当金についてのやり取りをする様子

病気やケガで働けなくなった際の生活を支える傷病手当金。しかし、せっかく申請しても「支給されなかった」というケースも少なくありません。

実は、給与をもらっていたり、医師の診断内容が不十分だったりと、いくつかの条件を満たしていないと受け取れない場合があります。また、会社によっては申請手続きに協力的でないこともあります。

本記事では、傷病手当金がもらえない代表的なケースを具体的に解説するとともに、受給するための条件、会社とのトラブル対処法まで網羅的に紹介します。申請前に確認して、確実に給付金を受け取りましょう。

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この記事の監修者

杉山雅浩

スピネル法律事務所 弁護士

東京弁護士会所属。
池袋中心に企業顧問と詐欺被害事件に多く携わっています。
NHKやフジテレビなど多くのメディアに出演しており、
詐欺被害回復などに力を入れている個人に寄り添った弁護士です。

YouTubeの他、NHK、千葉テレビ、テ日本テレビ、東海テレビ、FM西東京、フジテレビ、共同通信社、時事通信社、朝日新聞、朝日テレビ、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、TBS、CBCテレビ、名古屋テレビ、中日新聞その他数多くのネット記事、週刊誌多数のメディアに取材されたり、AbemaTV、NHKスペシャル、クローズアップ現代、バイキングモア、おはよう日本、など有名番組に出演してます!

 

傷病手当金とは

傷病手当金の申請について悩む女性

傷病手当金とは、健康保険に加入している被保険者の生活を保障するために支払われる手当です。支給条件と支給期間、計算方法について解説します。

参考:全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)

傷病手当金の支給条件

傷病手当金は、以下の4つの条件をすべて満たした場合に支給されます。自分が対象になるか、まずは基本条件を確認しましょう。

条件① 業務外の病気やケガによる療養であること

傷病手当金は、業務や通勤途中以外が原因の病気やケガで療養する場合に支給されます。勤務中や通勤中の病気・ケガは労災保険の対象となるため、傷病手当金は受け取れません。
また、美容整形など、病気と認められない医療行為による休業も対象外です。

条件② 働くことができない状態(労務不能)であること

医師の診断に基づき、「これまで従事していた仕事ができない状態(労務不能)」と判断される必要があります。
自己判断で休んでいるだけでは支給されません。例えば、同じ病気でも症状が軽く、医師が「働くことは可能」と判断した場合は、支給対象外となることがあります。

条件③ 連続3日間を含む4日以上休んでいること

業務外の病気やケガのために仕事を休み始めた日から、連続した3日間(待期期間)が必要です。この3日間には、土日・祝日、有給休暇も含まれます。そして、4日目以降の休んだ日に対して傷病手当金が支給されます。

条件④ 休業中に給与の支払いがないこと

療養で休んでいる期間について、原則として会社から給与が支払われていないことが条件です。ただし、給与が支払われていても、その額が傷病手当金の額より少ない場合は、差額分が支給されます。

傷病手当金の支給期間と計算方法

傷病手当金の支給期間は、最長1年6か月です。令和2年7月1日以降は、支給を開始した日から通算します。ただし、次の期間は通算に含まれません。

  • 賃金が会社から支払われていて、不支給になった期間
  • 老齢年金や障害年金を受給して、不支給になった期間
  • 出産手当金を受給して、不支給になった期間

 

参考:全国健康保険協会

最初に傷病手当金が支給された日から、直近12か月の平均標準報酬月額を計算します。平均標準報酬月額÷30=標準報酬日額です。休業日1日につき、標準報酬日額の3分の2相当額が支給されます。

(例)
標準報酬月額200,000円
待機期間後の休業日数20日
200,000÷30=6,666円
6,666円×2/3×20=88,880円

この場合の支給額は、88,880円です。

傷病手当金の金額について詳しく知りたい場合は以下の記事を参考にしてください。

参考:傷病手当金の金額を早見表でチェック!支給額が変わるケースや退職後の扱いも解説

傷病手当金の申請方法

申請用紙に記入をするイメージ

傷病手当金の申請の際には、申請書と書類が必要です。申請書提出後、審査を経て、支給が決定します。スムーズな支給のために、申請手順と申請に必要なものを解説します。

傷病手当金の申請手順

1:医療機関の受診
病気やケガの診断書の取得とともに、医師に申請書の「療養担当者記入用」に記載を依頼します。診断書だけでは、傷病手当金を申請・受給するための証明書としては使えません。

2: 傷病手当金支給申請書に記入
「被保険者記入用」の項目に必要事項を記入します。

3:事業主に記入・証明を依頼
労務に服することができなかった期間(申請期間)の勤務状況および賃金支払い状況等の記入を依頼します。合わせて申請期間中の労務と給与に関する証明を受けます。

上記は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の例です。保険組合により申請書の記載内容が多少異なるケースがあります。また、申請書の提出は、給与計算の締め日以降に行いましょう。

傷病手当金の申請に必要なもの

初回申請に必要な書類は、以下の書類の提出が必要となる可能性があります。

  • 傷病手当金支給申請書
  • 医師による診断書(労務不可の証明)
  • 労務に服することができなかった期間を含む給与計算期間とその期間前 1か月分の給与(賃金)台帳
  • タイムカードの写し

 

役員の場合は、タイムカードや給与台帳の代わりに役員報酬を支給しない役員会議議事録の写しを添付します。

傷病手当金支給中に出勤した場合は、傷病手当金請求期間の最終日を含む月の出勤簿や給与台帳の写しなどが必要になります。タイムカード・給与台帳の写しなどの提出が追加で求められるケースもあります。

障害厚生年金受給者や退職後(資格喪失後)に継続給付を受ける場合は、直近の年金額がわかる書類の添付が必要です。

(例)

  • 年金振込通知書(支払通知書)の写し
  • 年金額改定通知書の写し

 

傷病手当金をもらいながら働く方法は可能なのか知りたい場合は以下の記事を参考にしてください。
参考:傷病手当金をもらいながら働く方法はある?収入を得る方法や注意点を解説

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会社が傷病手当金を嫌がる3つの理由

傷病手当金を嫌がる会社

会社に傷病手当金の申請を申し出た際に、嫌がられたり、渋い顔をされたりしたという経験を持つ方もいるかもしれません。理由として、制度に対する理解不足による誤解や、事務作業の増加による負担感などが考えられます。

ここでは、会社が傷病手当金の申請を嫌がる主な理由を3つ解説します。

会社が負担しなければならないと勘違いしている

傷病手当金の原資は、労働者が支払っている健康保険料です。会社側には、直接的な金銭的負担はありません。しかし、なかには「会社が負担しなければならない」と勘違いし、コスト削減を理由に傷病手当金の申請を嫌がるケースもあるでしょう。

また、傷病手当金の支給を受ける人が増えると、会社が「負担する保険料が上がるのではないか」と懸念している可能性もあります。

しかし、傷病手当金は健康保険に加入するすべての会社員が、条件を満たせば受けることができる給付金です。会社は従業員から申請書の提出依頼があった場合、正当な理由なく拒否することはできません。

書類作成にかかる手間と時間が煩わしい

傷病手当金の申請手続きには、会社側で必要書類の作成や労務管理など、事務手続きを行う必要があります。人手不足や業務の繁忙期など、会社側の事情によって、こうした事務手続きを負担に感じる場合もあるでしょう。

中には、上司が部下に対して嫌がらせを目的として、傷病手当金申請の手続きを意図的に遅らせたり、拒否したりするケースも考えられます。

しかし、傷病手当金申請の処理は、通常、管理部門や人事部門が行います。上司の個人的な考えや方針で、申請を拒否することはできません。上司から申請を拒否された場合は、後述する相談窓口に相談してみましょう。

どのように書けばよいかわからない

傷病手当金申請書は、医師、被保険者、事業主と、それぞれ記入する欄が異なり、記入項目も多いため、複雑に感じるかもしれません。特に、過去に傷病手当金の申請経験がない企業では、申請手続きに慣れておらず、戸惑うこともあるでしょう。

医師の診断書の期間と、実際に労働者が休んだ期間が一致しない場合などは、手続きがさらに複雑になります。また、会社側の記入ミスや記入漏れなどがあると、申請書を再提出しなければならない可能性もあります。申請書の記入例を参考にしたり、健康保険組合などに相談したりすることで、スムーズに手続きを進められるでしょう。

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傷病手当金がもらえない代表的なケース

傷病手当金の支給条件を満たしていても、状況によっては支給されない、または減額されることがあります。ここでは、傷病手当金がもらえない代表的なケースを「収入がある場合」「診察・診断に問題がある場合」「その他のケース」の3つのカテゴリに分けて詳しく解説します。

ケース①:給与やその他の収入がある

傷病手当金は休業中の生活を保障するための制度なので、他に収入があると支給が調整されます。

休業期間中に会社から給与が支払われている場合、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、支払われた給与の日額が、もらえるはずの傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額分が支給されます。

例:傷病手当金の日額が6,000円、給与の日額が2,000円の場合 → 差額の4,000円が支給
給与以外の収入がある(年金・出産手当金など)

給与以外にも、以下のような公的な給付金を受け取っている場合、傷病手当金の支給が停止または調整されることがあります。

  • 障害厚生年金・障害手当金
  • 老齢(退職)年金
  • 出産手当金
  • 労災保険の休業(補償)給付

 

これらの給付金も、受け取る日額が傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給されます。

ケース②:診察や診断に問題がある

申請の基となる、医師の診察や診断内容が原因で支給されないケースです。

初診日が退職後である

休業の原因となった病気やケガの初診日が、会社を退職した日よりも後である場合、傷病手当金はもらえません。傷病手当金は、在職中に加入している健康保険の制度だからです。

ただし、在職中に初診日があり、一定の条件を満たせば、退職後も継続して傷病手当金を受け取ることが可能です。

不定期に通院している

傷病手当金の申請には、医師による「労務不能(働けない状態)」であることの証明が不可欠です。通院が不定期だったり、自己判断で長期間受診しなかったりすると、医師がその期間の就労可否を判断できず、証明を書いてもらえない可能性があります。結果として、その期間の傷病手当金は支給されません。

医師の診断内容が不十分である

申請書に記載される医師の診断内容が、支給条件を満たしていないと判断される場合があります。例えば、骨折した場合でも「デスクワークなら可能」と判断されるなど、病状が就労を完全に不可能にするほど重くないと見なされた場合は、「労務不能」には当たらないとして不支給になることがあります。

ケース③:その他の理由

制度の対象外であったり、手続き上の問題があったりするケースです。

業務中や通勤中のケガや病気で申請した

勤務中や通勤途中のケガ・病気は、健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の「休業(補償)給付」の対象となります。誤って傷病手当金を申請しても支給されません。

美容整形など病気と認められない

傷病手当金の対象は「病気」や「ケガ」の療養です。美容整形など、病気とは認められない医療行為による休業は対象外となります。

申請期限(2年)を過ぎている

傷病手当金の申請には時効があり、労務不能であった日の翌日から2年を過ぎると申請できなくなります。給与の締め日ごとに申請するのが一般的ですが、申請を忘れていると時効を迎えてしまうため注意が必要です。

書類に不備がある

申請書類の記入漏れや、会社・医師の記入ミスなど、書類に不備があると審査が進まず、支給が遅れたり、不支給になったりする原因になります。提出前には必ず全体を確認しましょう。

会社に傷病手当金の申請を断られた際の対処法

会社に傷病手当金の申請を断られた際の対処法を伝える女性

会社に傷病手当金の申請を断られた場合に備え、下記3カ所の相談先と具体的な対処法について紹介します。

・社内(上司・人事課など)
・社労士・弁護士
・外部組織や専門団体

社内で相談できる人に掛け合ってみる

傷病手当金に関する基本的な知識を身につけたうえで、上司や人事担当者に、自分の状況や希望を丁寧に説明しましょう。傷病手当金の申請は労働者の権利であること、申請に必要な手続きや書類などを具体的に説明することで、理解を得られる可能性があります。

会社が申請を拒否する理由としては、制度への理解不足や、書類の複雑さに対する不安などが考えられます。こちらから歩み寄り、必要に応じてサポートを申し出ることで、解決できる可能性があります。

社内で解決が難しい場合は、労働組合に相談してみるのも良いでしょう。第三者的な立場から、問題解決の糸口を見つけてくれる可能性があります。

社労士や弁護士に相談してみる

会社側が協力的でない場合は、労働問題や社会保険に精通した社労士(社会保険労務士)に相談してみましょう。社労士は企業側の事情にも精通しているため、傷病手当金の申請に関して、状況に応じた的確なアドバイスを受けることができます。

社労士に相談し、得られた助言を会社側に伝えてみましょう。場合によっては、社労士の名前を出すことで、会社側の対応が変わる可能性もあります。

傷病手当金の申請以外にも、労働問題に関するトラブルを抱えている場合は、弁護士への相談も検討しましょう。弁護士に相談することで、法的な観点から問題解決に向けたアドバイスやサポートを受けられます。また、弁護士が介入することで、会社側もより真剣に対応する可能性が高まり、問題の早期解決につながるケースもあります。

外部の組織や団体に支援してもらう

社労士や弁護士に相談する場合は、費用がかかることがあります。費用を抑えたい場合は、管轄の協会けんぽ支部や自治体の無料相談窓口などに相談してみるのもよいでしょう。

これらの窓口では、専門家からアドバイスを受けることができます。傷病手当金の申請で困ったことがあれば、一人で悩まずに相談してみましょう。

まとめ

会社が傷病手当金の申請を嫌がる理由としては、制度に対する理解不足、事務手続きの煩雑さなどが挙げられます。しかし、傷病手当金の申請は労働者の権利であり、会社側は正当な理由なく拒否することはできません。

会社から申請を拒否されたとしても、諦める必要はありません。傷病手当金の申請は、被保険者の正当な権利です。病気やケガで働けない間の生活費の心配を軽減するためにも、傷病手当金制度を積極的に活用しましょう。

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この記事の監修者

杉山 雅浩

スピネル法律事務所 弁護士

東京弁護士会所属。
池袋中心に企業顧問と詐欺被害事件に多く携わっています。
NHKやフジテレビなど多くのメディアに出演しており、
詐欺被害回復などに力を入れている個人に寄り添った弁護士です。

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