2025.12.01

精神疾患について

うつ病は傷病手当がもらえない?活用できる制度も併せて紹介

うつ病で苦しむ様子

うつ病と診断され休職した場合、「傷病手当金をもらえるから大丈夫」と安易に考えるのは危険かもしれません。

実はうつ病でも、条件や状況によっては給付金が一切もらえない、あるいは大幅に減額されるケースもあります。特に、精神疾患は「労務不能」の判断が難しく、「症状が軽度だから働ける」と見なされると、申請が却下されるリスクがあることに留意が必要です。

本記事では、うつ病で傷病手当金が不支給になる代表的なケースを深掘りして解説します。傷病手当金がもらえない場合や足りない場合に使える制度も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

社会保険給付金サポートのお問い合わせはこちら▼

うつ病で傷病手当金をもらうことは可能

傷病手当金の支給申請書うつ病を含む精神疾患であっても、傷病手当をもらうことは可能です。

実際に、傷病手当金を受給している人のうち、うつ病を含む精神疾患で受給している人も多くいます。協会けんぽ(全国健康保険協会)が発表した「現金給付受給者状況調査報告書(令和6年度)」によると、令和6年10月時点で「精神及び行動の障害」による受給者は39.15%と、全体の約4割を占めており、他の疾患より多い割合です。

このように、うつ病で傷病手当金を受け取ることは可能であり、実際に多くの人が受給している事実があります。しかし、受給するためには所定の条件を満たすことが必要で、状況によってはうつ病でも支給されないケースもあるため注意が必要です。

傷病手当金とは

傷病手当金とは、病気やケガにより療養が必要で仕事に就けないときに、健康保険(社会保険)から支給される給付金です。協会けんぽや健康保険組合などが運用する健康保険に加入している人が、一定の条件を満たすと支給されます。

ここでは、うつ病で傷病手当金がもらえないケースを紹介する前に、押さえておきたい基本的な支給条件や支給期間、傷病手当と休業手当との違いを解説します。

支給条件

傷病手当金を受け取るためには、以下の条件を満たす必要があります。

業務外での病気やケガで療養するために休業が必要である
病気やケガで仕事ができない状態である
連続した3日間を含む4日以上働けなかった
休業期間に給与を受け取っていない

ただし、休業期間中に給与や手当をもらっていても、傷病手当金より少ないときに差額が支給されることがあります。

また、大前提として社会保険(健康保険)に加入していることが条件です。在職中に受給する場合は、加入期間に定めはありません。

支給期間

傷病手当金がもらえる期間は、支給申請した日が通算1年6か月になるまでです。途中で出勤した日がある場合、出勤日を除いて数えます。

給付金の支給日は、申請のタイミングにより異なりますが、申請してからおおむね1か月前後が一般的です。

申請のタイミングは基本的には自由ですが、なかには1か月ごとに申請するよう推奨されていることもあります。申請時期が特に決められていない場合でも、給与の受け取りと同じタイミングとなる1か月分をまとめて申請するのがおすすめです。

傷病手当・休業手当・休職手当との違い

傷病手当金と似た名前や内容の給付金・手当には、傷病手当や休業手当、休職手当があります。

傷病手当とは、雇用保険における失業等給付のうち求職者給付に区分される給付金です。失業保険の受給資格者が連続15日以上、病気やケガで働けない人が対象となります。失業保険の受給申請後にうつ病になり、上記の期間働けない状態になると傷病手当が支給されます。

休業手当とは、会社の都合で従業員を休ませたときに、本来支払われるはずだった給与の一部を補償する目的で支給される手当です。うつ病が原因で、従業員が休むケースでは適用外となります。

また、休職手当は「傷病手当金」または「会社独自の休業補償制度」のどちらかを指すケースがあります。傷病手当金は社会保険制度の一つですが、休業補償制度は会社のルールに則り運用される違いがあることを押さえておきましょう。

うつ病で傷病手当金をもらえない代表的なケース

うつ病で休職して収入が途絶える場合、傷病手当金は経済的な支えとなります。

しかし、うつ病だからといって、必ずもらえるわけではありません。受給資格を満たしていても支給の対象外となるケースや、支給額が調整されるケースがあります。申請後に不支給や減額になるのを避けるためにも、どのような場合が対象外となるのか事前に把握することが重要です。

ここでは、うつ病で傷病手当金がもらえない代表的なケースについて、理由と注意点を解説します。

うつ病でも働けると判断された場合

うつ病でも、仕事ができると判断された場合は、傷病手当金の支給対象にならないことがあります。例えば、症状が軽度だったり投薬治療により症状が安定していたりするなど、病気はあっても働ける状況が該当します。

働けるか働けないかは、医師による医学的根拠の説明と担当業務の種類を照らし合わせ、協会けんぽや健康保険組合が判断するものです。うつ病の場合は目に見える傷病ではないため、労務の可否は判断しにくく、働けると判断されてしまうケースがあります。

うつ病で傷病手当金を受給する際は、医療機関を受診した際に、医師に具体的な症状やなぜ働けないかを明確に伝えることが大切です。

発症の原因が仕事にある場合

うつ病になった原因が仕事にある場合も、傷病手当金はもらえません。仕事が原因で起こった病気やケガは、労災保険の休業補償給付の範囲となるため、傷病手当金は対象外です。

労災保険で給付金をもらう場合は、うつ病の原因が仕事にあると客観的に証明できるかどうかが重要です。タイムカード、業務日報、音声データやメールといった証拠、同僚の証言などが必要になることがあります。

休業した日に給与が支払われた場合

うつ病で仕事に行けず休んだ場合でも、有給休暇で休んでいるなど給与の支払いがあると傷病手当金を受け取れないことがあります。

また、傷病手当金の日額より給与の日額の方が少ない場合は、差額が支給されます。出勤の有無にかかわらず支給される通勤手当や住宅手当などの手当も、給与と同様に扱われるため注意しましょう。

障害厚生年金や障害手当金を受け取っている場合

うつ病で障害厚生年金や障害手当金を受け取っている場合、うつ病では傷病手当金をもらえません。同一の病気やケガは、傷病手当金と障害厚生年金・障害手当金の併用はできないことにも注意が必要です。

ただし、障害厚生年金の額の360分の1が傷病手当金の日額より少ないときは、差額が支給されます。障害手当金の場合は、傷病手当金の合計額が障害手当金の額に達するまで支給されません。

老齢退職年金をもらっている場合

老齢厚生年金や老齢基礎年金など老齢退職年金を受け取りながら、うつ病で傷病手当金をもらうことは原則としてできません。ただし、傷病手当金の日額より老齢退職年金を360分の1にした金額の方が少ない場合は、差額を受け取れます。

支給期間が終了した場合

傷病手当金の支給期間は、通算1年6か月です。うつ病で通算1年6か月分の期間をすべて受給し終えた場合、その後、同じうつ病を理由に続けて傷病手当金を受け取ることはできません。

ただし、以下の条件を満たし、「日常生活が問題なく送れる状態になった」と判断された場合は、過去にうつ病で受給していたとしても、もう一度「うつ病」として傷病手当金を受給できる可能性があります。

  • 療養を中止していたとき
  • 症状がなくなり、治癒したと判断されたとき
  • 仕事に復帰し、相当期間健康状態が良好だったとき

 

なお、過去に別の傷病で受給していた場合は、今回初めてうつ病で申請するときは受給が可能です。

うつ病でもらえる傷病手当金の支給額

うつ病で傷病手当金をもらう場合、いくらもらえるかをシミュレーションしてみましょう。

そもそも傷病手当金の支給額は、原則として以下の計算式で算出します。

傷病手当金の日額=支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額÷30日×3分の2

ただし、支給開始日より前の健康保険の加入期間が12か月に満たないときは、以下のどちらか低い方を標準報酬月額として計算します。支給開始日とは3日間の待期期間後、労務不能となった日のことです。

  • 支給開始日が属する月以前の連続した月の標準報酬月額の平均
  • 標準報酬月額の平均値

 

標準報酬月額の平均値は、協会けんぽや健康保険組合ごとに前被保険者の標準報酬月額を平均した額です。

以下の条件の人がうつ病で傷病手当金を受給しようとしたと仮定し、いくら支給されるか計算してみましょう。

  • 健康保険の加入期間:2年
  • 標準報酬月額:直近12か月間のうち、3か月30万円、9か月は32万円

 

条件から、支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額=(30万円×3か月+32万円×9か月)÷12か月=31万5,000円と計算できます。そのため、以下の計算式により、傷病手当金の日額は7,000円です。

傷病手当金の日額=31万5,000円÷30日×3分の2=7,000円

うつ病で傷病手当金を申請する方法

うつ病で傷病手当金を申請する基本的な流れは、以下のとおりです。

  1. 精神科や心療内科を受診する
  2. 会社に休職が必要なことや傷病手当金を受け取りたい旨を伝える
  3. 待期期間を完成させる
  4. 申請書を入手する
  5. 医療機関で申請書に医師の証明をもらう
  6. 本人欄を記入する
  7. 会社に事業主欄を書いてもらう
  8. 申請書と必要な添付書類を添えて加入している健康保険の運営元に提出する

 

また、退職後にうつ病で傷病手当金を受給する場合は、以下の条件を満たす必要があります。

  • 退職日までに健康保険の被保険者期間が1年以上ある
  • 退職前に傷病手当金を受けている、または条件を満たしている
  • 退職日に出勤していない

社会保険給付金サポートのお問い合わせはこちら▼

うつ病で傷病手当金がもらえないときでも使える制度

うつ病で傷病手当金がもらえない場合や受給中でも、別の給付金や制度を利用できることがあります。任意の制度は、自分で調べて申請しないと利用できないため、どのような制度があるか知っておくことが重要です。

ここでは、うつ病で傷病手当金がもらえないときでも使える制度を紹介します。

自立支援医療制度

自立支援医療制度とは、心身の障害を除去・軽減するための医療にかかる費用の自己負担額が軽減される制度です。うつ病を含む精神疾患でも対象となります。

登録した疾患に対する医療費の自己負担額が1割になるほか、条件を満たすと1か月の医療費が上限額を超えると、それ以上の支払いは不要になることが特徴です。自立支援医療制度は障害手当金とは異なる制度で、社会保険に加入していない国民健康保険の加入者も対象になります。

障害年金

うつ病の症状の程度によっては、障害年金を受けられる可能性があります。

障害年金とは、病気やケガで障害が残り、日常生活や労働が困難な人に支給される年金です。特に働けない状態であれば、より高い等級に認定されることがあります。

うつ病と同じ精神障害に分類されますが、パニック障害や適応障害などの神経系疾患、パーソナリティー障害などの人格障害は障害年金の対象外です。

労災保険の休業補償給付

仕事が原因で発症したうつ病の場合は、労災保険の休業補償給付が対象となるため、傷病手当金は支給されません。休業補償給付の対象と認定されると、休んだ日に応じた給付金が支給されます。

前述のとおり、うつ病を含む精神疾患は原因が仕事にあるのか、プライベートにあるのか判断しにくい病気です。仕事に原因があったとしても、プライベートでの出来事などが複雑に関与している可能性もあり、入念な準備が必要になります。

客観的な証拠がないと証明するのは難しいため、申請には大きな手間がかかることに留意しましょう。

精神障害保健福祉手帳

精神障害保健福祉手帳は、うつ病を含む多くの精神疾患が対象となっており、交付されるとさまざまなサービスが無料・割引で受けられます。具体的には、公共交通機関の運賃割引やスマートフォンの通信料割引、映画館や美術館の入場無料・割引サービスなどです。

また、所得税や住民税など税金の控除も受けられるため、うつ病で休職する際に経済的な不安がある場合は交付申請を検討しましょう。

失業保険

うつ病により退職した後、うつ病の症状が軽くなり働けるようになった場合は、条件を満たせば失業保険が受給できます。

失業保険とは、正式には雇用保険の基本手当を指し、退職後に再就職するまでの求職期間中の生活を支援するための給付金です。失業状態にあり、すぐにでも働ける人が対象となるため、うつ病で働けない人はすぐには受給できません。

そのため、退職後も継続して傷病手当金をもらいながら、回復後に受給できるよう失業保険の延長申請を行っておくとよいでしょう。延長申請により、失業保険の受給期間が最大4年に延長されます。

退職後に失業保険の受給申請をしたものの、うつ病を発症して療養が必要な場合は、雇用保険の傷病手当を受け取れる可能性もあります。

うつ病で傷病手当金をもらうポイント

うつ病で傷病手当金をもらうポイント

うつ病で傷病手当金を受け取るには、制度のルールを正しく理解し、申請手続きをスムーズに進めることが必要です。特にうつ病の場合、体調が優れない中で複雑な申請書類を作成したり、会社や医療機関とやり取りしたりすることは、大きな負担になることがあります。

療養生活を経済的に安定させるためには、場合によっては外部のサポートを活用しながら、書類の準備を万全に整えることが重要です。

ここでは、うつ病で傷病手当金をスムーズに受け取るために、押さえておきたいポイントを解説します。

書類の不備や添付書類の提出忘れに注意する

傷病手当金は、必要書類の提出後に審査を経て支給が決まります。書類の不備や添付書類の提出忘れがあると、差し戻しが発生して支給されるのが遅くなることがあります。

不備の内容によっては、不支給になる可能性もあるため、記入漏れやミスなどがないよう注意が必要です。不支給となった場合は再審査請求も可能ですが、時間や手間がかかるため、初回で審査を通過するよう万全に準備することが大切です。

社会保険給付金サポートを活用する

うつ病は症状によっては抑うつ気分や倦怠感が強く出て、傷病手当金の受給に必要な書類を作成したり、関係各所に連絡したりすることが困難なケースも少なくありません。

そのため、自分一人の力ですべて進めようとするのではなく、傷病手当金をはじめとする、社会保険給付金の手続きをサポートしてくれるサービスを活用するのがおすすめです。

まとめ

うつ病で傷病手当金を受け取ることは可能ですが、受給には所定の条件を満たす必要があります。「働けると判断された」「業務上が原因だった」「年金との併給」など、うつ病であっても支給外障害となるケースに注意しましょう。

また受給する際は、支給額の計算方法、申請の流れについて、ポイントを把握しておく必要があります。しかし、うつ病の療養中に煩雑な条件の確認や書類の準備をすべて一人で行うことは困難です。

「病気の影響から一人で申請するのは難しい」「何から始めればいいのかわからない」という方は、「社会保険給付金サポート」をご検討ください。社会保険給付金サポートでは、専任スタッフが複雑な手続きをサポートし、安心して療養生活を送れるようお手伝いします。

公式LINEからの相談やWEB説明会は無料のため、まずはお気軽にお問い合わせください。

社会保険給付金サポートのお問い合わせはこちら▼

この記事の監修者

杉山 雅浩

スピネル法律事務所 弁護士

東京弁護士会所属。
池袋中心に企業顧問と詐欺被害事件に多く携わっています。
NHKやフジテレビなど多くのメディアに出演しており、
詐欺被害回復などに力を入れている個人に寄り添った弁護士です。

YouTubeの他、NHK、千葉テレビ、日本テレビ、東海テレビ、FM西東京、フジテレビ、共同通信社、時事通信社、朝日新聞、朝日テレビ、読売新聞、日本経済新聞、毎日新聞、TBS、CBCテレビ、名古屋テレビ、中日新聞その他数多くのネット記事、週刊誌多数のメディアに取材されたり、AbemaTV、NHKスペシャル、クローズアップ現代、バイキングモア、おはよう日本、など有名番組に出演してます!

テーマ

新着記事