2025.11.28
社会保険について
傷病手当金はいつもらえる?支給要件・期間・金額・申請方法を解説

病気やケガで長期間働けなくなったとき、社会保険(健康保険)に加入していれば、生活を支える給付金として傷病手当金を受け取れます。
しかし、支給条件や申請方法など、受給に必要な情報は会社側から教えてくれるわけではありません。そのため、労働者自らで制度について調べる必要があります。
本記事では、傷病手当金は「いつから」「いくら」「どうやって」もらえるのかといった基本的な知識から、スムーズに受け取るための注意点を解説します。病気やケガで働けず、生活に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
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傷病手当金とは

傷病手当金とは、社会保険(健康保険)の被保険者が病気やケガで一定期間以上働けなかった日に支給される給付金です。
この場合の健康保険とは、健康保険組合や協会けんぽ(全国健康保険協会)などが運用する医療保険制度を指します。公的医療保険制度である国民健康保険の給付金ではありません。
傷病手当金は、受け取れる期間と申請の期限が決まっており、申請時に必要書類を提出する必要があります。まずは、傷病手当金の基礎知識を解説します。
支給期間
傷病手当金を受け取れる期間は、最大で支給開始日から通算1年6か月です。「通算」のため、受給しなかった日は支給期間に含まれず、支給日数が合計1年6か月になるまで受給できます。
支給期間中に申請した傷病から回復し、労務が可能になるとその日から支給が停止されます。支給期間が残っている場合は、再度同じ傷病で受給を再開することも可能です。
例えば、1年間受給した後に働けるようになり、3か月間は出勤していたが、その後再び同じ傷病で休むことになった場合は、残りの6か月分が受け取れる最大の期間です。
申請期限
傷病手当金の申請期限は、労務不能だった日の翌日から2年以内です。傷病手当金は1日ごとに申請可能なため、働けなかった日ごとに申請期限があります。
例えば、2025年11月15日から同年11月20日まで労務不能で欠勤した場合、2025年11月15日の申請期限は2027年11月15日、2025年11月16日の申請期限は2027年11月16日と1日ごとに期限があることに注意です。
上記の例では、2027年11月20日までに2025年11月16日までの申請しかできていない場合、11月17日から20日までの4日分が時効を迎え、全額は受け取れなくなってしまいます。
必要書類
傷病手当金の申請に必要な書類は、「傷病手当金支給申請書」です。申請書に健康保険の被保険者証の記号番号ではなく、マイナンバーを記載した場合は、以下の添付書類が必要になります。
マイナンバーがわかる書類(マイナンバーカードの裏面の写し、マイナンバーが記載された住民票など)
身元確認書類(マイナンバーカードの表面の写し、運転免許証の写しなど)
ただし、加入している健康保険組合によって必要書類が異なることに注意が必要です。詳しくは後ほど解説しますが、傷病手当金の受給中にその他の給付金を受けている場合は、受給状況がわかる書類の添付が求められます。
傷病手当金の4つの支給条件
傷病手当金を受け取るためには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガで療養していること
- 働けない状況であること
- 連続3日間を含む4日以上働けなかったこと
- 休業した日の給与の支払いがないこと
ここでは、満たす必要のある支給条件を詳しく解説します。
条件①業務外の事由による病気やケガで療養していること
傷病手当金の対象になるのは、業務外での病気やケガの療養です。業務中や通勤中の病気やケガは対象外になるため、注意しましょう。
また、美容整形など病気・ケガとみなされないものも対象外です。自費診療でも、病気やケガが原因で仕事に就けないと証明できる場合は支給対象になります。
条件②働けない状況であること
傷病手当金が支給されるのは、支給対象の病気やケガで働けない状態のときです。業務外での病気やケガでも、軽症で働ける状態と判断されると支給されないケースがあります。
例えば、指を骨折して治療中でも業務や通勤に大きな支障がなく、普段と同じように働ける場合は労務可能と判断され、傷病手当金はもらえません。労務不能かどうかは労働者本人や会社では判断できないため、傷病手当金の受給には医師の診断が必要です。
条件③連続3日間を含み4日目以上も働けなかったこと
傷病手当金を受給するためには、連続した休業3日間を含む4日以上仕事に行けなかったことが条件です。
連続した3日間の休業を待期期間と呼び、この期間後に4日目の休業があるとこの4日目から支給開始されます。待期期間後、4日目の休業日は必ずしも連続している必要はありません。
待期期間は給与の支払い対象となる日かどうかは問われないため、有給休暇や土日・祝日などの公休日が含まれます。ただし、共済組合の場合は公休日が待期期間に含まれないなど、加入している健康保険によって条件が異なるため、事前に確認しておきましょう。
また、就労時間中に業務外の原因で起きた病気やケガで傷病手当金を受給する際は、出勤日であっても傷病が起きた日が待期期間の1日目に該当します。例えば、休憩時間にコンビニへ行くために外出した先で転んで骨折して午後から休業した場合などは、傷病が起きた当日から待期期間に数えます。
条件④休業した日の給与の支払いがないこと
連続3日間の待期期間は給与支払いの有無は問われませんが、4日目以降に休業した日に給与が支払われている場合は、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、傷病手当金の日額より支払われた給与の日額が少ない場合は、差額が支給されるケースもあります。傷病手当金の支給対象日に給与の支払いがあった場合の給付金調整について、詳しくは後で解説します。
傷病手当金の計算方法
傷病手当金の1日分の支給額は、「支給開始日以前の継続した12か月間の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2」で計算されます。そのため、傷病手当金の支給開始日以前に健康保険の加入期間が12か月未満である場合は、上記の計算式では支給額を求められません。
ここでは、加入期間が12か月未満のケースと12か月以上のケース、2つのパターンに分けて支給額の計算方法を解説します。
健康保険の加入期間が12か月未満の場合
傷病手当金の支給開始日以前の加入期間が12か月未満の場合は、以下のうちいずれか低い額を用いて計算します。
- 支給開始日が属する月以前の直近の継続した標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均値
「標準報酬月額の平均値」とは、一般的に前年度9月30日における各健康保険組合の全被保険者の同月標準報酬月額を平均した額です。健康保険組合によって平均値は異なり、毎年変更されます。
例えば、協会けんぽの場合は、支給開始日が2025年4月1日以降の人は32万円に設定されています。
健康保険の加入期間が12か月以上の場合
健康保険の加入期間が12か月以上あるときは、傷病手当金の支給開始日が属する月以前の12か月の標準報酬月額を平均した額を使用します。
以前に勤めていた会社から引き続き健康保険に加入している場合は、途中で転職していても加入期間は継続して数えることに注意しましょう。例えば、11か月前に現在の会社に入社したが、それ以前に連続して別の会社で1か月以上健康保険に加入しているケースは、12か月以上として計算します。
ケース別に受給額をシミュレーション
ここでは、実際に条件を当てはめて受給額をシミュレーションしてみましょう。
- 加入している健康保険:協会けんぽ
- 加入期間:12か月未満
- 直近の標準報酬月額の平均:24万円
上記の条件は、協会けんぽの標準報酬月額の平均値32万円と比較し、直近の標準報酬月額の方が低いため24万円で計算します。
1日当たりの支給額=(24万円÷30日×3分の2=5,333円(小数点第一位四捨五入)
一方で、以下のように途中で標準報酬月額が変わった場合でも計算してみましょう。
加入している健康保険:協会けんぽ
加入期間:12か月以上
直近12か月の標準報酬月額:3か月間は24万円、9か月間は26万円
1日当たりの支給額=(24万円×3か月+26万円×9か月)÷12か月÷30日×3分の2=5,667円(小数点第一位四捨五入)
傷病手当金を受け取るまでの一般的な流れ
傷病手当金を受け取るまでの基本的な流れは、以下のとおりです。
- 医療機関を受診する
- 療養が必要なことを会社に伝える
- 待期期間を成立させる
- 会社を通じて傷病手当金を申請する
- 傷病手当金が振り込まれる
- 労務可能になるまで、または支給期間満了まで申請と受給を繰り返す
ここでは、傷病手当金を受給する流れをステップごとに詳しく解説します。
医療機関を受診する
傷病手当金を受け取るためには、医療機関を受診して医師から「療養が必要」と診断される必要があります。自己判断で療養の必要性は判断できないため、体調が悪く仕事に行けなかったとしても、医師の診断がないと傷病手当金は受給できません。
支給開始日は、連続した3日間の待期期間後4日目の休業日からです。医療機関の初診日から待期期間のカウントが始まるため、初診日以前の休業日は待期期間や支給日に含まれないことに注意しましょう。
療養が必要なことを会社に伝える
医療機関を受診後、医師から療養が必要と指示されたことを会社に伝えましょう。連絡せずに休むと、無断欠勤と判断されることがあるため注意が必要です。
また、上司や人事部に伝えるために出勤すると、待期期間が完成せず、傷病手当金をもらえなくなったり受給が遅れたりするので注意しましょう。
待期期間の成立後に出勤して伝える、電話で伝えるなど、待期期間と受給開始日を意識しておくことが重要です。
会社に話すときは、「医師の診断があること」「なぜ休業が必要なのか」「傷病手当金を申請する予定であること」を明確に伝えることで、この後の手続きがスムーズに進みやすくなります。会社によっては、長期休業の際に医師の診断書の提出を求められることがあるため、速やかに書類を準備して指示に従いましょう。
待期期間を成立させる
傷病手当金が支給開始されるのは、連続した3日間の待期期間を経た4日目の休業日からです。待期期間が成立する前に、1日でも出勤するとカウントは0に戻ります。
例えば、2日間連続して休業したとしても、3日目に出勤すると待期期間は成立しません。3日連続で休業して待期期間を成立させれば、その後途中で出勤したとしても同じ傷病で働けない日は支給対象になります。
会社を通じて傷病手当金を申請する
待期期間の成立後、支給開始日から支給対象となる休業日について、傷病手当金を申請します。在職中は会社を通じて申請するため、会社の担当者と連絡を取れるようにしておくとスムーズです。
受給に必要な申請書は会社から受け取り、医療機関で医師の記入欄に記入してもらってから、労働者本人の記入欄を埋めて会社に提出します。申請の手順について、後ほど詳しく解説します。
傷病手当金が振り込まれる
申請書を各健康保険組合に提出後、審査が行われます。
無事に支給決定となると、健康保険組合から支給額などが書かれた「支給決定通知書」が送られてくるのが一般的です。支給条件を満たさないなど、不支給と決定されると「不支給決定通知書」が送付されます。
支給が決まると、申請書に記入した金融機関の口座に振り込まれます。いつ振り込まれるかは健康保険組合によって異なりますが、一般的にはおおむね1か月後です。
ただし、各健康保険組合の処理状況によって数週間で振り込まれる場合もあれば、2か月かかることもあるため、詳しくは各組合のホームページで確認しましょう。
労務可能になるまで、または支給期間満了まで申請と受給を繰り返す
初回の受給後は働けるようになるまで、または支給期間が終了するまで申請と受給の手順を繰り返します。支給期間の途中で出勤日があった場合は、労務可能日を除いて申請します。
支給期間は、最大で支給日が合計1年6か月になるまでです。支給開始日から1年6か月後ではないことに注意しましょう。出勤日を除いて、通算1年6か月まで受給できます。
傷病手当金は1日単位で支給申請できますが、1回で申請する期間や時期がルールで決まっている健康保険組合もあります。
傷病手当金の申請方法
傷病手当金を申請する際は、以下の手順で手続きを進めます。
- 傷病手当金支給申請書を入手する
- 医療機関で医師欄に記入してもらう
- 本人記入欄に必要事項を記入する
- 申請書を会社に提出し、事業主欄に記入してもらう
- 健康保険組合に書類を提出する
各ステップを詳しくみていきましょう。
ステップ①傷病手当金支給申請書を入手する
傷病手当金を受給したいときは、まず傷病手当金支給申請書を入手します。
会社で加入している健康保険組合によって申請書の書式が異なるため、加入している組合のものを準備しましょう。申請書は各組合のホームページからダウンロードできる場合もありますが、基本的には会社から受け取ることが一般的です。
受給期間が長期になりそうな場合は、何枚かまとめて会社からもらっておくと、毎回もらう手間を省けます。
ステップ②医療機関で医師欄に記入してもらう
申請書を受け取ったら、まずは医療機関で医師の記入欄を書いてもらいます。医療機関では申請書を準備していないため、該当の申請書を持っていく必要があります。
診察室で医師に依頼する前に、受付で申請書の記入をお願いしたい旨を話しておくとスムーズです。
注意したいのは、医師の記入欄は申請する期間が経過していないと書いてもらえないことです。例えば、11月1日から11月30日までの分を申請したい場合、11月20日に受診しても30日までの分の申請書を書いてもらうことはできません。
申請書は受診日当日に記入してもらえることもありますが、医療機関によっては後日渡しになることもあるため、事前にいつ受け取りになるか確認しておきましょう。
また、申請書の医師欄を記入してもらう際は、「傷病手当金意見書交付料」の費用がかかります。この費用は健康保険が適用され、2025年時点の保険点数は100点(1,000円)で、保険適用により3割負担の人は300円支払うことになります。そのため、申請書を書いてもらうためには、当日の診察料+300円が必要です。
ステップ③本人記入欄に必要事項を記入する
医師記入欄に必要事項を書いてもらったら、次に労働者本人の記入欄を埋めます。
申請書は基本的にボールペンでの記入になるため、すでに医師に記入してもらっている場合は、記入ミスをしないように慎重に書きましょう。誤記入してしまった場合は、各健康保険組合のルールに則り訂正します。
一般的に、修正液や修正テープなどの使用は書類不備と判断されるため、誤記入に慌ててルールを確認せず使ってしまわないよう注意が必要です。本人記入欄の書き方について、詳しくは後述します。
ステップ④申請書を会社に提出し、事業主欄に記入してもらう
医師欄と本人欄が埋まったら、申請書を会社に提出して事業主欄を記入してもらいます。
退職後も引き続き傷病手当金をもらう際の申請書は、事業主欄は未記入で問題ありません。ただし、退職日までの支給分については事業主に記入してもらう必要があります。
ステップ⑤健康保険組合に書類を提出する
会社に事業主欄を記入してもらい申請書が完成したら、加入している健康保険組合に必要書類を揃えて提出します。在職中は会社から提出してもらえることもありますが、本人が直接組合に郵送することも可能です。
同時にその他の給付金をもらう場合は、以下のような添付書類が必要になることがあります。
|
同時に受ける給付金の種類 |
必要な添付書類 |
|
障害厚生年金(マイナンバーによる情報照会を希望していない場合) |
障害厚生年金給付の年金証書のコピー、年金額改定通知書のコピーなど |
|
障害手当金(マイナンバーによる情報照会を希望していない場合) |
年金給付額がわかる書類、障害手当金の支給を証明する書類のコピー |
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老齢退職年金(マイナンバーによる情報照会を希望していない場合) |
老齢退職年金給付の年金証書のコピー、年金額改定通知書のコピーなど |
|
労災保険の休業補償給付 |
休業補償給付支給決定通知書のコピー |
傷病手当金支給申請書の書き方
傷病手当金支給申請書の書式は、各健康保険組合によって異なります。書き方も違うため、それぞれのルールに従って書類を作成することが必要です。
ここでは、協会けんぽの申請書を例に、基本の書き方を解説します。
記入前に準備しておくもの
傷病手当金支給申請書を書く前に、主に以下の情報がわかる書類を準備しておくと作成をスムーズに進めやすくなります。
傷病手当金を振り込んでもらう予定の金融機関名・支店名・口座番号
健康保険の被保険者証記号・番号
障害厚生年金・障害手当金・老齢年金等の年金をもらっている場合は、基礎年金番号・年金コード・支給開始年月日・年金額の情報も必要です。被保険者証の記号番号がわからないときは、マイナンバーを確認できる書類も準備しておきましょう。
本人記入欄
本人記入欄では、被保険者証の記号番号・生年月日・氏名・住所・振込先指定口座のほか、申請内容や確認事項の記入が必要です。
申請内容の項目では、申請期間(いつからいつまでの分を申請するか)、仕事の内容、発病・負傷年月日、傷病の原因などを記入します。
傷病の種類と仕事の内容を考慮し、該当の傷病で仕事ができない状態なのかが審査されます。そのため、「経理事務」「営業」「自動車整備」「コールセンタースタッフ」など具体的に書くことが重要です。
医師記入欄
医師記入欄(協会けんぽでは「療養担当者記入用書類」)は、医師が記入する箇所です。労務不要と認められる期間・傷病名・初診日・原因・発病または負傷の年月日・労務不能な期間中の診察の有無・労務不能と判断した医学的所見の欄と、医療機関・医師の署名欄があります。
労務不能と判断された期間中に労務可能な日が含まれる場合は、不能日を余白に書き出してもらいましょう。
事業主記入欄
事業主の記入欄は、勤務状況や欠勤中の報酬支給日を証明する箇所です。ここに記載された報酬支給日によっては、傷病手当金が不支給となったり、調整されたりすることがあります。
傷病手当金に影響する報酬とは、有給休暇の賃金や通勤手当、扶養手当、住宅手当などが該当します。出勤の有無に関わらず上記の手当が支給される場合は、金額によっては傷病手当金が不支給となることがあります。
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傷病手当金がもらえないケース
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった際の生活を支える重要な制度です。
しかし、加入している健康保険の種類や、傷病の原因、休業中の他の収入など、いくつかの条件によっては支給の対象外となることがあります。ここでは、傷病手当金が「もらえないケース」について、具体的な条件を解説します。
国民健康保険に加入中に発生した傷病の場合
国民健康保険に加入している自営業者やフリーター、農業・漁業を営んでいる人などが、傷病により仕事に就けなくなった場合は、傷病手当金はもらえません。
傷病手当金は、社会保険に加入中の傷病が原因で働けなくなった場合に支給される給付金です。傷病手当金制度のない国民健康保険に加入中に発生した傷病は対象外となります。
ただし、退職後に社会保険の資格を喪失し、国民健康保険に加入した場合でも、社会保険加入中に発生した傷病は条件を満たせば傷病手当金の対象になることがあります。
労災保険の休業補償給付の対象になる場合
労災保険の休業補償給付の対象者は、原則として傷病手当金を同時に受け取れません。
労災保険の休業補償給付とは、業務上または通勤中に発生した傷病に対して療養が必要なときに支給される給付金です。傷病手当金は業務外の傷病が対象になるため、業務中に発生したものは対象外となります。
原則として、同じ傷病による休業では休業補償給付と傷病手当金を同時に受け取ることはできず、休業補償給付の日額が傷病手当金より少ない場合に差額のみ支給されます。
ただし、私傷病と業務災害など原因が全く異なる傷病であれば、制度上「あり得る」ことになります。なお、非常に稀なケースであるため、具体的な取扱いは加入している健康保険組合や所轄労基署等での確認が必要です。
他の収入が一定額を上回る場合
休業期間中に受け取った給与・手当や障害厚生年金、老齢年金等の収入が一定額を上回る場合は傷病手当金をもらえません。
ただし、一定額を下回る場合は、支給額が調整されて差額を受け取れる可能性があります。収入ごとに支給額が調整される条件は異なるため、詳しくは後述します。
任意継続被保険者になってから発生した傷病の場合
退職後に任意継続被保険者になり、その後発生した傷病により働けなくなった場合は、傷病手当金は支給されません。
会社で加入している健康保険は退職後に資格喪失となり、別の健康保険に加入する必要があります。ただし、任意継続を利用すると、会社の健康保険の資格が継続されます。
任意継続被保険者になるためには、一定の条件を満たした上で、退職日の翌日から20日以内の手続きが必要です。期間は被保険者になった日から2年間で、それを過ぎると資格喪失となり、別の健康保険に加入することになります。
任意継続被保険者の保険給付に傷病手当金はないため、退職後に発生した傷病は対象外です。ただし、初診日が退職前で条件を満たしている場合は、退職後の健康保険の種類にかかわらず傷病手当金を受け取れることがあります。
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傷病手当金の支給額が調整されるケース
原則として、休業中に給与の支払いがあったり、傷病手当金以外の給付金を受けていたりする場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、給与や給付金の額によっては、傷病手当金の支給額が調整されて支給されるケースがあります。ここでは、対象となる具体的なケースとどのような調整がされるかを紹介します。
給与や手当の支払いがあった場合
休業中に給与や手当の支払いがあった場合は、以下の金額を比べたときに傷病手当金の日額の方が多ければ給与・手当の日額との差額が支給されます。
- 傷病手当金の1日分の支給額
- 支払われた給与の日額
傷病手当金の日額より支払われた給与の日額の方が多い場合は、その間の傷病手当金は支給されません。
老齢年金等をもらっている場合
会社を退職して健康保険の資格を喪失した後、老齢年金等を受けている人が傷病手当金を同時に受け取るには、以下の金額を比較して傷病手当金の日額の方が多いことが条件です。老齢年金は満額、傷病手当金はその差額分が支給されます。
- 傷病手当金の日額
- 老齢年金等を360分の1にした額
老齢年金等とは、老齢厚生年金や老齢基礎年金、退職共済年金などです。年金の受給額が傷病手当金より多い場合は、傷病手当金は支給されません。
労災保険から休業補償給付を受けている場合
労災保険の休業補償給付を受けている、または受けていても、別の業務外の傷病で傷病手当金を受給したい場合は、以下のうち傷病手当金の日額が多くなるケースで差額が支給されます。
- 傷病手当金の日額
- 労災保険の休業補償給付の日額
休業補償給付を受けているのと同じ傷病の場合は、業務上の傷病と判断されるため、そもそも傷病手当金は支給されないので注意しましょう。
出産手当金を受給した場合
原則として、傷病手当金と出産手当金の両方で条件を満たしている場合、同時期に受け取れるのは出産手当金のみです。
ただし、それぞれ支給日額が異なるケースがあるため、出産手当金の額が傷病手当金の額より少ない場合は、傷病手当金から差額が支払われます。
障害厚生年金または障害手当金をもらっている場合
障害厚生年金を受けている場合は、以下のうち傷病手当金の日額が多いときに差額が支給されます。
- 傷病手当金の日額
- 障害厚生年金額の360分の1
同時に障害基礎年金を受けているときは、障害厚生年金+障害基礎年金の合計額の360分の1が差額支給の基準額です。
障害手当金の場合は、傷病手当金の支給総額が障害手当金の額に達するまで傷病手当金は支給されません。合計額が障害手当金を上回ったときから、傷病手当金を受け取れるようになります。
傷病手当金を受け取る際の注意点
傷病手当金をスムーズに受け取るためには、申請から支給までのタイムラグや申請のタイミング、雇用保険との違いなどいくつかの重要な注意点があります。特に、退職後も継続して受給する場合には、失業手当との兼ね合いで在職中とは異なる手続きや注意点を理解しておくことが重要です。
ここでは、傷病手当金を受け取る際に押さえたいポイントを解説します。
申請後すぐには振り込まれない
傷病手当金は、傷病により働けない期間の収入を確保できる制度ですが、申請後すぐに受け取れるわけではありません。申請後に支給決定のための審査があり、その後振り込み手続きが行われます。
申請から振り込みまでにかかる時間は各健康保険組合によって異なりますが、協会けんぽの場合は書類が組合に届いてから支給決定されるまで2週間前後とされています。ただし、書類の不備などで上記以上に時間がかかるケースもあるため、誤記入や添付書類の入れ忘れがないよう注意しましょう。
また、傷病手当金は支給申請する休業日が過ぎてからでないと申請できないことにも注意が必要です。例えば、支給開始日が12月1日として、医師から1か月は療養が必要と言われていたとしても、申請できるのは実際に休業した日のみです。休む予定の日を先に申請することはできないため、休業日にその日分の支給額が使えるわけではありません。
申請のタイミングは健康保険組合のルールに準ずる
傷病手当金は1日ごとに申請できるが、月末などに1か月分を申請するのが一般的です。健康保険組合のルールによっては、1回の申請で1か月分をまとめて申請することを原則としている場合もあります。
1回で申請する期間に決まりがない場合でも、1か月ごとに申請することで給与支払いの代わりとなり、生活が安定しやすくなります。申請書の作成も1か月に1度でよいため、手間も少なくなるため、特別な理由がない場合は1か月ごとに申請するのがおすすめです。
休業日が短期間の場合は、最後の休業日を過ぎてからまとめて申請する選択肢もあります。
複数の傷病があるときは重複して受け取れない
同時に複数の傷病が発生したとしても、傷病ごとに傷病手当金を受け取れるわけではありません。
例えば、4月1日から骨折により支給開始となり、傷病手当金の支給を受けた状態で5月1日に悪性腫瘍と診断された場合で考えてみましょう。
このケースでは、最初の骨折による支給が終了するまでは、悪性腫瘍の分は支給されたものとみなされ支給されません。骨折による支給が終了した後も、悪性腫瘍により休業が続いている場合は、支給期間の残りを悪性腫瘍の分として受給できます。
また、主たる傷病に付随する合併症などの傷病は、同じ傷病として扱われます。同じ傷病と認定されると初診日が異なる場合でも、支給期間は通算1年6か月で終了となる点に注意しましょう。
雇用保険の「傷病手当」とは異なる
健康保険の傷病手当金と、雇用保険の「傷病手当」は別の給付金であることに注意が必要です。
雇用保険の傷病手当は、基本手当(失業手当)と同じ求職者給付に分類される給付金です。失業手当の受給資格者がハローワークで求職申し込みをした後に、傷病により15日以上職業に就けない場合に支給されます。
健康保険の傷病手当金と雇用保険の傷病手当について、違いをまとめました。
|
健康保険の傷病手当金 |
雇用保険の傷病手当 |
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|
該当する保険の種類 |
健康保険(社会保険) |
雇用保険 |
|
受給のタイミング |
原則として在職中 |
失業中 |
|
管轄している機関 |
各健康保険組合 |
ハローワーク |
すぐに失業手当をもらわない場合は延長申請する
傷病手当金は、条件を満たせば退職後も継続して受給できます。ただし、退職後にもらえる失業手当との併用はできません。失業手当はすぐにでも働ける人が対象のため、傷病手当金をもらっている人は対象外です。
傷病手当金をもらい終わり、労務可能と医師に判断されれば、失業手当を受給できます。失業手当の申請期限は、退職した日の翌日から1年間です。期間をすぎると受給途中でも支給停止となるため、退職後しばらく傷病手当金を受給する場合は、失業手当の延長申請をしておきましょう。
延長申請することで、退職日の翌日から最長4年まで受給期間を延長できます。実際の延長期間は、受給できなかった期間分です。例えば、退職後6か月間傷病手当金を受給し、その後失業手当を申請して受け取る場合の受給期間は、退職日の翌日から1年6か月までになります。
退職後は1日でも働ける日があると支給停止される
在職中に傷病手当金を受け取っており、退職後も引き続き受給を続ける場合は条件に注意しましょう。
在職中は受給中に労務可能と判断されて出勤する日があっても、その後再び労務不能と判断されて休業した場合でも傷病手当金を受け取れます。一方で、退職後は労務可能と判断された日が1日でもあるとその時点で支給終了となり、退職前のように断続して受け取ることはできなくなります。
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まとめ
傷病手当金は、社会保険加入者が業務外の病気やケガで働けない期間の生活を支える制度です。最大で通算1年6か月受給でき、支給額は標準報酬月額に基づいて算出されます。支給を受けるためには条件を満たした上で、申請書に医師の記入や会社の証明が必要で、申請後のタイムラグや退職後の継続受給における失業手当との兼ね合いなど、細かな注意点も多く存在します。
複雑な支給条件や申請手続きに対し、「本当に受給できるのか不安」「書類作成に自信がない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
傷病手当金の申請手続きが不安な方は、「社会保険給付金サポート」のご利用をご検討ください。制度に詳しいスタッフが煩雑な書類作成や申請手続きをサポートし、傷病手当金のスムーズな受給をバックアップします。安心して療養に専念するためにも、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
杉山 雅浩
スピネル法律事務所 弁護士
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