2022.12.16
障害年金について
障害年金と精神疾患:うつ病、統合失調症の認定基準は?
近年、企業におけるメンタルヘルスケアの重要性について聞くようになりました。メンタルヘルスが重視される背景には、様々な要因での労働環境の悪化やブラック企業での長時間労働や精神的圧迫などがあるかと思いますが、実際、メンタルヘルスを病んでしまう勤労者は増加しているという統計があります。
次のグラフは厚生労働省が平成11年(西暦1999年)から平成26年(2014年)までの精神疾患を有する総患者数の推移を疾病別にまとめたグラフです。
「気分[感情]障害(躁うつ病を含む」および「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」が近年明らかに増加していることがお分かりになると思います。この統計は勤労者だけでなく、総患者数となっていますが、実際に働いている人の中でも同じような傾向でメンタルヘルスに問題を抱えている人が増加していることでしょう。
実際、メンタルヘルスに問題を抱えてしまい、それを理由に退職せざるをえなくなった人もいます。そういう人たちをケアする仕組みのひとつが「障害年金」なのです。
障害年金受給を検討中なら、ぜひ「退職前の受診」を!
まず、障害年金受給について基本をおさらいしてみましょう。
まず、障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類、いわゆる「2階建て」といわれる仕組みがあり、これらの給付を受けるためには国民年金、あるいは厚生年金や共済年金に加入していることが前提になります。
そして障害年金を受け取る場合、年金の納付状況などの条件を満たしていないとなりません。初診日を起点に、それまでの保険料の納付率が一定以上でなければ(20歳前を除き)障害年金の申請はできません。
【障害年金受給の前提条件】
1.初診日
初診日から1年6ヶ月を経過した日(その間に治った場合は治った日)または20歳に達した日に障害の状態にあるか、または65歳に達する日の前日までの間に障害の状態となった場合です。
2.保険料の納付
国民年金に加入している場合、つまり厚生年金や共済年金に加入していない20歳以上60歳未満の人や自営業者、パートやアルバイト、学生、配偶者の扶養になっている主婦などが、病気やケガで初めて医師の診療を受けた際(初診日初めて医師の診療を受けた日)は「障害基礎年金」の対象となります。同様に初診日に、民間企業に勤務していて厚生年金に加入している人や、共済年金加入者で本人のみが加入している場合は、「障害厚生年金」の対象になります。
ここで重要なのは障害年金が「2階建て」になっていることです。つまり退職後に初診日認定されると障害厚生年金がもらえないということになります。
前にもご説明した通り、障害年金は2階建て年金という仕組みであり、次の表の黄色分の障害基礎年金がその1階部分となります。さらに2階建て年金の2階部分が障害厚生年金です。会社員の場合は社会保険が適用されている事業所は厚生年金(表内緑色部分)が、公務員や私立学校職員などは共済組合員本人のみが共済年金(表内紫色部分)の対象となります。
初診日に加入していた年金 |
|||||
障害 等級 |
国民年金 |
厚生年金 (2階部分) |
共済年金 (2階部分) |
||
1級 |
1級 障害基礎 |
1級 障害基礎 |
1級 障害厚生 |
1級 障害基礎 |
1級 障害共済 |
2級 |
2級 障害基礎 |
2級 障害基礎 |
2級 障害厚生 |
2級 障害基礎 |
2級 障害共済 |
3級 |
なし |
なし |
3級 障害厚生 |
なし |
3級 障害共済 |
1~3級に該当しない障害 |
なし |
なし |
障害 手当金 |
なし |
障害 一時金 |
この障害等級の表にあるように、厚生年金加入時に初診日認定されると、障害等級1級と2級に関しては障害基礎年金と障害厚生(共済)年金の両方が支給されることになります。障害等級3級の場合は厚生年金あるいは共済年金のいずれかのみ支給されることになります。
このようにメンタルヘルスにトラブルを抱えている状況で退職代行サービスを利用すると決めたのであれば、退職前に心療内科や精神科の受診をしておくことを強くおすすめします。もし、ご自身での受診に出向くのが難しい場合は、お身内や友人が介添えする形などでの受診しておくとよいでしょう。
知っておくべき障害年金申請のポイント
それでは障害年金受給のため、どのような条件であれば申請し、給付を受けられるのか、知っておくべきポイントを解説します。
①「初診日」の条件とは?
「初診日」の基準とはどのようなものか解説します。まず、先に触れたように2階建て年金の2階部分を受給するためには、厚生年金・共済年金加入中であることが前提条件となるということは説明したとおりです。
また、障害の原因となった傷病の初診日に、国民年金または厚生年金・共済年金の被保険者か、国民年金の被保険者だった60歳以上65歳未満であることも条件です。さらに初診日の前々月までの年金加入期間に3分の2以上保険料を納めている(免除を含む)か、前々月までの直近1年間に未納がないことも条件に含まれます。
ではうつ病・統合失調症など精神障害などで「初診日」と認定されるための症状は、どのようなものになるのでしょうか。
基本的に「うつ病や統合失調症などの症状を訴えたことにより、精神科を受診するようにと指示を受けたり、精神科のある病院への紹介状を初診の医師が作成した日」が初診日になります。なお、「心療内科でも精神科に関する診断書の作成が可能であれば、その診断書を提出すること」で受給認定される場合もあります。
そして障害厚生年金請求が可能になるのは、ここで規定された「初診日」から1年6ヶ月経過した日、すなわち「障害認定日」以降になります。
なお、障害年金での精神障害と統合失調症の認定等級を次の表にまとめました。
【うつ病など精神障害の認定等級】
認定等級 |
条件 |
1級 |
ほぼ寝たきりで、日常生活で常に他人の介助を要するもの。 |
2級 |
就労できず、日常生活を正常に営むことができないもの(症状が重い場合は買い物や身だしなみを整えることなどができない状況)。 |
3級 |
日常生活や就労はほぼ可能だが、症状の悪化により、それらに支障が発生することがあるもの。 |
【統合失調症の認定等級】
認定等級 |
条件 |
1級 |
高度の残遺状態または高度の病状があり、高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明で、常時の介護が必要なもの。 |
2級 |
残遺状態または病状があるため人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活において著しい制限を受けるもの。 |
3級 |
残遺状態または病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があり、就労に制限を受けるもの。 |
※残遺状態
妄想型や解体型、緊張型といった統合失調症の初期段階が過ぎつつも、症状が残っている状態を指します。
②時効と社会的治癒
障害年金には受給の審査で「時効」「社会的治癒」という考えがあります。
まず、「時効」から解説します。
例えば「障害認定日」とされる精神科への初診日が7年前だとし、障害年金を申請せず、その後も症状に改善が見られないまま今に至っているとします。このような場合、障害年金を受給認定されるのは「時効」という制限により、原則的に直近5年間分のみとなります。
初診日について、カルテの廃棄や病院組織の統廃合等で証明できない場合、診察券作成日やお薬手帳の記録なども証明になることもあります。もし、このような状況で初診日証明に行き詰まってしまった際は、社会保険労務士に相談すると、専門家ならではの対応で解決に繋がる場合もあるので、検討してみるといいと思います。
次に「社会的治癒」について解説します。
「社会的治癒」とは、治療を受けていない期間がおおよそ5年以上あり、その期間は通常の生活が営めていた場合、本来の初診日でなく再発後に最初 に受診した日を初診日として認めるものです。
例えば7年前にうつ病を発症し初診日として申請したが、その後、治療で症状が改善し5年間は就労し通常の生活を送ることができていた。しかし、2年前に転職したブラック企業での長時間労働やパワハラでうつ病が再発し受診した場合、この再発による受診日を「初診日」と認定する、というものです。
③神経症・PTSDは障害年金の対象?
障害年金では、神経症に類する傷病について、うつ病や統合失調症等よりも受給が難しくなります。これは発症者が自ら病気であることを認識し、対応した行動をとることができ、自ら治癒に向けて対応できる状態である、という考えから来ています。つまり、神経症は、うつ病や統合失調症に対して、障害の程度が軽く、日常生活を営むことについて問題が少ないと考えられていることも理由です。
なお、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、神経症に分類されるため、やはり障害年金受給は難しい場合が多いとされています。ただし、医師の診断書で「精神病」という記載があれば、受給できる可能性があります。
④就労している場合は?
障害年金の受給の際、就労している場合はどう判断されるのでしょうか。障害の認定等級の条件と整合性のある就労条件であれば問題はないと考えられます。例えば在宅勤務、時短勤務の軽作業など、どのような就労条件で働いているのかを「病歴・就労状況等申立書」に記載します。自分で作成することもできますし、これも社会保険労務士に依頼することも可能です。
まとめ
障害年金は受給までのプロセスが複雑で、また、提出する書類についても書き方の表現がちょっとかわっただけでも審査結果が変わってしまうことがあるようです。
もちろん、自分だけで申請することも可能ですが、もし何かしらの不安があるようでしたら、社会保険労務士など、専門家に相談することをおすすめします。
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